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2013.09.22

「いまはむかし 竹取異聞」 異聞に込められた現実を乗り越える力

 武官の家柄である実家が性に合わず飛び出した少年・弥吹と、幼馴染みの朝香は、とある里で阿生と輝夜という二人の少年と出会う。実はかぐや姫を守る月守だという二人が、かぐや姫の五つの宝を封印する旅をしていることを知り、同行することにした弥吹たち。しかし彼らを待つのは過酷な運命だった…

 なぜもっと早くこの本に出会っていなかったのだろう、と感じられる本に出会えるのは、本好きにとっては大きな喜びと悔しさを感じられるものでありますが、本作はまさにそんな一冊。約二年前に単行本として刊行されたものが、このたび文庫化されたものですが――副題にあるとおり、あの「竹取物語」の意外な真実を描く、良質の児童文学です。

 物語は、平城京に遷都されてから数年後、将軍の父を持ちながら、武官の生き方に馴染めない少年・弥吹が都を抜け出すところから始まります。心配してついてきた幼馴染みの少女・朝香とともにあてどもなくさまよううち、阿生(アキ)と輝夜(キヨ)という不思議な少年たちと弥吹が出会ったことから、思いもよらぬ冒険が始まることとなります。

 実は阿生と輝夜は、月から地上に降りてきたかぐや姫を守ってきた「月守」の民。不思議な力を秘めた五つの宝を携え、彼女と結ばれた者に莫大な富と不死をもたらすというかぐや姫は、それゆえ欲望に駆られた者たちに狙われ、月守たちに守られて代を重ねて(!)いたのであります。
 しかし当代のかぐや姫とその夫、そして月守たちが住まう里は、姫を狙う者たちに焼き払われ、残ったのは阿生と輝夜のみ。二人は、この世に争いを生む五つの宝を封印し、月に返すため、孤独な旅を続けていたのです。

 …我々がよく知る「竹取物語」――すなわち、かぐや姫の物語。その物語と、本作で語られるそれは、大きな隔たりがあります。人々が美しき姫を、五つの宝を求めるその姿が描かれるのは共通しても、竹取物語がどこか滑稽な味わいを持っているのに対し、本作で描かれるそれはあまりにも残酷なもの。
 人々の欲望の対象とされ、たとえ愛する者と結ばれても、安らぎの時を持つことができないかぐや姫。そして五つの宝も、その一つ一つが持つ強大な力故に人々を狂わせ、争いを引き起こすのです。

 阿生と輝夜の生い立ちと使命に共感し、同行することとした弥吹と朝香。かくて、残る宝を求めて少年たちの旅は続くのですが――そこに待ち受けるのは、あまりに過酷な出来事の数々であります。
 他者を傷つけるためにではなく、他者から身を守るために、あるいは世を治めるために宝を必要とする者たちの存在。自分たちでは到底及ばない力――権力を持つ者との対決。そして、阿生と輝夜が背負う、巨大すぎる秘密と運命――
 自分たちが信じてきた旅の目的の正しさすら大きく揺るがせにする出来事の数々に、彼らは大いに苦しむことになるのですが…

 しかしそれでも彼らは、なおも自分たちの道を信じ、どれほど傷つこうともまっすぐ歩き続けます。そんな彼らの姿は、彼らのまなざしは、彼らの言葉は、大人から見れば確かに青臭いものであり、自分勝手な子供の理屈に見えるかもしれません。
 しかし、子供だからこそ行ける道がある。子供だからこそ見れる景色がある。子供だからこそ言える言葉がある――彼らのひたむきな姿は、そんな想いを抱かせてくれるのであります。

 作中で、「物語を語ること」の楽しさに目覚めた弥吹は語ります。「いまはむかし」で語られる物語には、純粋なやさしさや一途な思いなど、ときにこの世の中ではきれいごとと言われてしまうようなものがこめられている。それでも、口ではうまくいかないとか、ありえないことだとか言っても、結局はみんなそういうものにひかれる、憧れるのだ――と。

 それは、まさに本作に当てはまる言葉でもありましょう。さらに言えば、それは私のような人間が児童文学に魅力を感じる理由でもあります。

 そして、一つの波瀾万丈の冒険が一つの美しい物語へと転化していく本作の結末は、そんな「現実」と「虚構」の美しい融合として――物語が、現実を乗り越え、そこに新たな意味を与える力として――すら感じられるのであります。


 児童文学と食わず嫌いの方にこそ読んでいただきたい本作。文庫化されて手に取りやすくなった今こそ、多くの方の目にとまることを願ってやみません。


「いまはむかし 竹取異聞」(安澄加奈 ポプラ文庫ピュアフル) Amazon
(P[あ]6-1)いまはむかし (ポプラ文庫ピュアフル (P[あ]6-1))

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