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2013.09.07

「紅豚」 怪魚が誘う財宝探しの果てに

 大地主の一人息子ながら放蕩者の柴子醇は、祖父が亡くなってまもなく、かつて家を飛び出した叔父を連れ戻すよう、父に命じられる。開封で青牛なる怪盗が暴れ回っているのを知った子醇は、一計を案じて青牛探索に紛れて首尾良く叔父と出会うのだが、事態は意外な方向に転がっていくのだった。

 何とも不思議な作品であります。唐代や宋代の中国を舞台に、ミステリアスでユーモラスな物語を描いてきた森福都ですが、本作はある宝を巡る冒険が、いつしか複雑な因果因縁を描いていく――そんな作品であります。

 物語は、地主の放蕩息子・柴子醇が、行方不明の叔父を探して宋の首都・開封に向かうところから始まります。不思議な絵を残して亡くなった祖父が隠したという莫大な財宝。その秘密を解き明かすには、子醇の父だけでなく、叔父の鉄余が必要だというのです。
 折しも開封では現場に青い砂を残すという怪盗・青牛が跳梁、子醇の父は、その正体が鉄余ではないかと睨んでいたのであります。

 様々な偶然から大商人の妾のもとに転がり込んだ子醇は、青牛の顔と偽って叔父の似顔絵を作らせ、首尾良く再会するのですが――やはり青牛の正体は鉄余その人。しかし開封で派手に暴れ回っているのはその偽物、しかも故郷に帰ろうと商船に同乗した二人は、その偽青牛に襲われる羽目に…


 と、ここまでで物語はまだまだ半ば。二人はいかにしてこの窮地を逃れるのか、祖父が残した財宝の在処とその正体は。その冒険行の中で、鉄余を悩ます不思議な過去の記憶の正体と、柴家に隠されたある秘密が浮かび上がっていくのであります。

 青牛と偽青牛の丁々発止のやり取り、財宝の在処を巡る謎解きなど、いかにも作者らしい楽しさがある本作なのですが、しかしそれ以上にまず印象に残るのは、人々の織りなす因果因縁の不思議さでありましょう。
 柴家の財宝、そして二つの青牛――一見全く関係ないように見えるこの二つの要素が、あれよあれよという間に繋がり、そこに現れるのは、巨大な秘密と、一種の宿命めいた人と人との繋がり。
 本作のタイトルである「紅豚」は、長江に棲むという赤い怪魚の名ですが、同時にこの人と人を繋ぐ運命の糸の象徴なのであります。

 そして、過去に潜む秘密を解き明かし、そこに繋がった人々の真の姿を描く本作は、同時に、未来に向かう道を描き出す物語でもあります。
 本作において中心的な役割を果たす三人――子醇、鉄余、そして偽青牛――は、それぞれ今をそれなりに生きてはいるものの、みらいに向けた確たる道を見いだせないという共通点を持ちます。

 そんな彼らが、青牛と紅豚を巡る冒険の中で、自分たちの預かり知らぬ、しかし自分たちと決して無縁ではない過去の存在を知ることで、自分たちの拠って立つべきものを知り、それを足がかりに、前に向かって歩き出すことを知る――

 「自分探し」という言葉は手垢がつきすぎた言葉ではありましょう。しかし、本作は財宝と怪盗を巡る冒険を描きつつも、およそ無縁のように見えるそれに辿り着くのです。
 本作を指して、不思議な物語と申し上げた所以であります。


 ちなみに――蛇足ではありますが、紅豚のモデルは、まず間違いなくカワイルカ(河海豚)でありましょう。
 しかしながら、本作の紅豚が棲むという長江(揚子江)のヨウスコウカワイルカは白色だった――過去形なのは既に絶滅したからですが――ので、ここはアマゾンカワイルカのように赤い体色の幻の魚がいたと考えるべきでしょうし、その方が、やはり本作には相応しいと感じられます。


「紅豚」(森福都 徳間書店) Amazon
紅豚

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