« 「ホームズ鬼譚 異次元の色彩」(その一) 怪異の中の現実と虚構 | トップページ | 「浣花洗剣録」第39集 ついに明かされる衝撃の事実、そして… »

2013.09.17

「ホームズ鬼譚 異次元の色彩」(その二) 原典という史実を超えて

 昨日の続き、「クトゥルー・ミュトス・ファイルズ」シリーズの最新巻「ホームズ鬼譚 異次元の色彩」の残り二作品の紹介であります。

 さて、続く北原尚彦「バスカヴィル家の怪魔」は、タイトルからも一目瞭然の通り、あの名作「バスカヴィル家の犬」のパスティーシュであります。
 イギリス南西部のデボン州はダートムアを舞台とした原典は、その外連味と怪奇性溢れる内容で私も大好きな作品。作中の年代は(諸説あるものの)1890年前後と考えられるのですが、であるならば、「宇宙からの色」で描かれた事件のわずか数年後ということになります。

 その原典を、ヴィクトリア朝ものの第一人者であり有数のシャーロキアンである作者が料理した本作は、ダートムアにもう一つの隕石が落下していた、というある意味直球な内容なのですが、そこから原典が文字通り異次元の色彩に染まっていく様が実に楽しい。
 原典でお馴染みのあのエピソード、あのキャラクターが、微妙に読み替えられていくのはパスティーシュならではの楽しみですが、しかし予定調和的に終わったかに見えた物語は、そこからが真の始まり。

 「バスカヴィル家の犬」というより、この犬はまるで別の…と思いきや、さらに「宇宙からの色」の○○版的な存在が登場して大暴れを始め、最後の最後には、もう一つの××との関係が匂わされて、物語を締めくくる…そこまでが比較的直球であったのはこの大展開のためであったか、とただ感心させられた次第であります。
 「バスカヴィル家の犬」という「史実」、「宇宙からの色」という「史実」を踏まえた、見事な「伝奇」ものでありました。


 そして最後のフーゴ・ハル「バーナム二世事件」は、なんとゲームブック。
 この「クトゥルー・ミュトス・ファイルズ」では、これまでもゲームブックが収録されたことがあるため、それほど驚くべきことではないかもしれませんが、しかしそれでも個人的に非常に感慨深いものがあります。
 というのも、作者はゲームブックファンにはお馴染みの「グレイルクエスト」のイラストを担当してきた人物であり、そしてそれ以上に、ホームズファン、ゲームブックファンには伝説の作品である「シャーロック・ホームズ 10の怪事件」をはじめとするシリーズの監修者だったというのですから…

 この「シャーロック・ホームズ 10の怪事件」にはじまるシリーズは、文中の指示に従ってパラグラフを読み進めていく通常のゲームブックとは異なり、発生した事件の概要を踏まえて、自分で調査先・聞き込み先を選び、証拠を集めた上で、最後に待つ事件の真相に関する真相に答えるというスタイルなのですが、本作もそれが踏襲されています。
(さらに言えば、聞き込み箇所を一種のポイント制として点数付けするシステムも踏襲)

 主人公はあのワトスン博士となって、別の事件で多忙のホームズに代わって怪事件を解決するという趣向。そしてその事件というのが、自宅で見世物を開業していたバーナム二世が、庭に留められていた馬車の中で、石塊をぶつけられて死んでいたというものなのですが――
 見世物の傍ら、怪しい商売にも絡み、オカルト界にも詳しかった(作中にはクロウリーやウェスコットら、イギリス魔術界の大物をもじった人物も登場するのが楽しい)という被害者だけに、その事件もオカルティックな色彩が強く感じられるものなのですが、さて、これが「宇宙からの色」とどう関わってくるのか?

 もちろん、作品のスタイルがスタイルだけに詳細には触れませんが、捜査が進展されていくにつれ、徐々に見えてくるその関わりには、なるほどと唸らされるばかり。
 ある意味、作品のスタイルのユニークさと反比例して、本書では最もホームズものとして、「宇宙からの色」オマージュとして正当派の作品と言えるかもしれません。


 と、駆け足で三作品を紹介いたしましたが、ご覧の通り、題材のインパクトによりかからぬ、決して負けぬ作品揃い。これまでのシリーズのアンソロジー同様、クトゥルー神話の可能性に挑んだ、内容豊かな作品群と感じます。
 ただ一つ残念なのは、何故ホームズなのか、その必然性にまで踏み込んだ作品がほとんどなかった点ではありますが――「探偵」たる彼が、地球外からの怪に挑む理由、そしてそこから生まれるものをさらに一歩進めていただきたかった…というのは、贅沢を言い過ぎかもしれませんが、見事な作品揃いであっただけに、そうも感じた次第であります。


「ホームズ鬼譚 異次元の色彩」(山田正紀、北原尚彦、フーゴ・ハル 創土社) Amazon
ホームズ鬼譚~異次元の色彩 (The Cthulhu Mythos Files 8)


関連記事
 「邪神帝国」 虚構から現実へ侵攻する悪夢
 「ダッチ・シュルツの奇怪な事件」 クトゥルー+ギャングの伝奇ホラー再び
 「邪神たちの2・26」 帝都を覆う影、その正体は…

|

« 「ホームズ鬼譚 異次元の色彩」(その一) 怪異の中の現実と虚構 | トップページ | 「浣花洗剣録」第39集 ついに明かされる衝撃の事実、そして… »

コメント

実はクトゥルフとホームズのジョイントものは他にもありまして、最近では這いよるニャル子のアニメにも出て来て有名な「クトゥルフの呼び声 TRPG」(現在では『クトゥルフ神話TRPG』として発売中)のサプリメント、「クトゥルフ・バイ・ガスライト」で、1890年代のイギリスを舞台にするための追加ルールおよび設定資料集です。収録シナリオにシャーロック・ホームズの依頼を受けて邪神の陰謀に立ち向かうという「ヨークシャーの怪事件」があります。ホームズの宿敵の某教授も出て来ますが、思わず納得のキャラクター数値でしたが、SAN値は0というのが(笑)。

投稿: ジャラル | 2013.09.18 21:34

ジャラル様:
「クトゥルフ・バイ・ガスライト」懐かしい! COCRPGのサプリメントは、プレイしなくても資料的価値が高くて欲しかったですね…

投稿: 三田主水 | 2013.09.29 20:53

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)




トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.cocolog-nifty.com/t/trackback/13655/58206618

この記事へのトラックバック一覧です: 「ホームズ鬼譚 異次元の色彩」(その二) 原典という史実を超えて:

« 「ホームズ鬼譚 異次元の色彩」(その一) 怪異の中の現実と虚構 | トップページ | 「浣花洗剣録」第39集 ついに明かされる衝撃の事実、そして… »