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2013.09.11

「死美女の誘惑 蓮飯店あやかし事件簿」 幽霊美青年、妖美女たちの謎に挑む?

 異界と現世の境にあるあやかしの海に面するという港町・琅邪。徐福不在の琅邪に、伝説に登場する妖力を持った美女たちが引き起こしたかのような怪事が次々と起きる。怪事件に挑むのは、琅邪に突如現れた女性専門の巫医・佳人だが…

 丸山天寿の中国古代ミステリシリーズ、久々の新作は、シリーズ番外編的な印象の短編集です。
 始皇帝の時代、伝説の方士・徐福とその弟子、仲間たちがこの世のものとも思えぬ怪事件に挑むこのシリーズですが、本作で描かれるのは、シリーズ第三作「威陽の闇」で徐福一行が秦の都・威陽に向かった後の港町・琅邪。
 異界と現世の境にあるといわれ、これまでも数々の怪事が起きてきたこの町で、今回起きるのは五つの怪事件であります。

 女性の惨殺体が相次いで発見される琅邪で、死してなお男性を寝室に誘う美女が現れる「死美女の誘惑」
 ある船大工の夢の中に幾度となく現れる、幽霊船の中で餓死していた美女の意外な正体「夢美女の呼び声」
 男たちを次々と水中に引きずり込む娘に変じた水狐の謎を描く「狐美女の決意」
 高い樹上に串刺しにされた男の死体は海を埋めようとする空飛ぶ女妖の仕業なのか「飛美女の執念」
 求盗(警察官)の希仁のもとに嫁入りした蛇の化身と疑われる美女に隠された秘密「蛇美女の嫁入り」

 いずれもいかにもこのシリーズらしい、この世の者ならざる存在によるものとしか思えない不可能犯罪ですが、それに挑む探偵役がまた一種の怪人物。
 その人物とは女性専門の巫医・佳人――美女と見紛う美貌を持ち、老いも若きも、いやそれどころか人間かそれ以外も問わずあらゆる女性に優しい、そして女好きの人物であります。

 とにかく女性中心である彼の論理は時に常人からは理解しがたいものではありますが、しかしその知力推理力もまた常人離れしたもの。かくて、怪事に悩む求盗の希仁や水商売の女将・蓮といったシリーズでもお馴染みの面々の依頼で、彼は事件の謎に挑むのですが――
 しかし彼自身もまた、実は大きな謎を抱える人物。実は彼の初登場は本作ではなく、過去のシリーズ作品に登場しているのですが、その時に彼は命を落としているのですから…
 一応は佳人の兄、ということになっているのですが、もしかしたら幽霊かもしれない人物が、妖魔が起こしたとしか思えない怪事件の謎を解いていくという構造が、実に本シリーズらしい、人を食った構造と感じられます。

 しかしそれ以上に本作が、このシリーズらしいと感じられるのは、その謎の先にある真実に向けられる眼差しであります。
 本作で語られる五つの事件と、そこに登場する五人の妖女――そこにあるのは、いずれもこの世にある理不尽に巻き込まれ、心ならずも怪異を、事件を引き起こすしかなかった哀しい者たちの姿。
 そんな者たちを単純に断罪するのでは決してなく、その魂を救い、理不尽を打ち砕く…そんなこれまでシリーズの中で徐福たちが行ってきた「治療」を、本作の中で佳人もまた、行うのであります。

 さらにいえば、そのような物語であるからこそ、あるいはこの世の法や常識の外に立つ(かもしれない)佳人の存在が必要とされたのではないか、というのはあながち牽強付会でもないのではありますまいか。

 一見この世のものならぬ怪事件を、そして胸躍るエンターテイメントを描きつつも、その背後にある弱き者たちの涙を決して見過ごしにはしない、そんな丸山作品の魅力は、ユニークな探偵が活躍する本作においても、やはり健在なのであります。


 ちなみに付言すれば、本書の作品のうち、「夢美女の呼び声」のみは以前「メフィスト」誌に掲載された作品ですが、内容こそその時と変わってはいないものの、実はその際には佳人は登場しておりません。
 この作品においては、よく読んでみると佳人がさほど活躍していないのは、その理由によるものでしょう。まことに蛇足ではありますが…


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死美女の誘惑 蓮飯店あやかし事件簿 (講談社ノベルス マI- 4)


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