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2013.10.21

「風の王国 10 草原の風の如く」 歴史小説として、時代伝奇小説として

 白頭山の噴火により旧渤海が不毛の地に変わっていく中、住民を避難させるべく奔走する明秀たち。一方、高氏渤海を滅ぼした耶律突欲の猖獗軍は、総力を挙げて南渤海の麗津に迫っていた。麗津を守るべく、最後の戦いに挑む明秀と仲間たち。明秀と突欲――対照的な生を送ってきた二人の戦いの行方は…

 これまで2ヶ月に1巻ペースで刊行されてきた平谷美樹の大河歴史ロマン「風の王国」も、この第10巻でついに完結であります。
 契丹が大陸を席巻する中、明秀たちの最後の戦いが描かれることとなりますが――全てのキャラクターの全ての因縁が一カ所に収束していく様は、ただ大団円というほかありません。

 明秀の両親の仇である高元譲との決着。噴火を続ける白頭山により不毛の地となった旧渤海の人々の救済。矛盾を孕みながら版図を広げていく契丹王位の行方。そして何よりも明秀と耶律突欲の戦いの決着。
 それらに数多くの登場人物の運命も含めて、描かれるべきものは全て描かれたという印象があります。

 その詳細については、興をそぐことがないよう、ここでは触れませんが、この最終巻のほぼ後半全てを費やして描かれる南渤海の麗津――思えばこの物語の本当の始まりの地であります――を巡る攻防戦の一進一退は、この長大な物語の最後の戦いとして、まことにふさわしいものと申せましょう。

 そしてまた、「風の王国」という物語を読み進める上で常に読者の頭の片隅に(悲劇の予感として)あったであろう第1巻冒頭のエ ピソード――現代の朝鮮山中の洞窟に平安時代の日本の甲冑が眠っていたその理由と意味が結末近くで明かされた時には、ただ嘆息するほかありませんでした。
 本作で明秀という男の生き様を通じて描かれてきた、国とは何か、望ましい国のあり方とは何かという問いかけの答えと合わせて、本作の掉尾を飾るにふさわしいものでありましょう。

 あるいは、明秀が示したその答えは、ある意味当然のものに感じられるかもしれません。しかしそこに至るまで、明秀が辿ってきた道のり、描かれてきた物語を思えば、それはこれ以上ない重みを持って感じられます。
 そしてまたそれが、現代に生きる我々一人一人の胸の中に向けられたものであることもまた。


 無味乾燥な歴史的事実の中に、その時代の人々の想いと生き様を読み取り描き出すのが歴史小説であるとするならば、本作は優れた歴史小説であります。
 そしてまた、変えられない歴史的事実の間隙に自在に想像力を遊ばせ、現代にまで通じる物語を生み出すのが時代伝奇小説であるとするならば、本作は超一級の時代伝奇小説であります。

 「風の王国」全10巻 ――人を描き国を問うた、この作者ならではの、この作者にしか書くことのできない名作であります。


「風の王国 10 草原の風の如く」(平谷美樹 角川春樹事務所時代小説文庫) Amazon
風の王国 10 草原の風の如く (ハルキ文庫 ひ 7-16)


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