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2013.10.06

「妾屋昼兵衛女帳面 5 寵姫裏表」 最大の戦いに挑むチームの心意気

 依頼に応じて妾を世話する「妾屋」とそこに集う面々が、武家社会の暗部をえぐり出す上田秀人の快作「妾屋昼兵衛女帳面」シリーズもいよいよクライマックス。将軍後継を巡り江戸城内外で繰り広げられる暗闘の末、ついに昼兵衛たちは黒幕の正体を掴むのですが…

 家斉の愛妾・内証の方の御褥辞退がきっかけに始まった今回の騒動。御褥辞退の背後に、こともあろうに家斉の二人の子が大奥で殺されていたことがあったのを知った家斉の厳命を受けた林出羽守の依頼で、昼兵衛たちは八重を大奥に送り込むことになりますが、なおも謎の敵の暗躍は続くこととなります。

 再び狙われた内証の子をかろうじて守り抜いた八重、事件の実行犯と結びつきがあると思しき商人に目星をつけた昼兵衛――事態は進展しているようですが、しかし八重はその活躍が祟って逆に大奥に縛り付けられ、昼兵衛は店に幾度も刺客を送られることになり、シリーズ始まって以来のピンチを迎えることとなるのですが…

 と、前作の解決編とも言える本作では、昼兵衛たちの逆襲が描かれることとなります。
 いかに将軍側近の依頼とはいえ、決して表沙汰にはできない今回の一件。しかもあくまでも市井の商売人である昼兵衛は、表だって物理的な力を振るうわけにもいきません。
 しかし、そんな状況下にあってものをいうのは、昼兵衛と仲間たちの情報収集能力とそれを利用しての交渉術、そしてクソ度胸であります。
 かくて昼兵衛をはじめ、飛脚の和津、瓦版屋の海老、用心棒の新左衛門と将左のチームメンバーそれぞれが己の特技を活かして反撃に転じていく様が実に楽しいのです。

 そしてまたたまらないのは、基本的に金だけの関係であるはずの彼らが、しかしそれだからこそ互いの結びつきを重んじて立ち上がる心意気です。
 探索の結果たどり着いた黒幕の一端は、海老曰く「瓦版にできない」アンタッチャブルな権力者。そんな敵を向こうに回し、一度はチーム解散を宣言する昼兵衛ですが…それで尻尾を巻くような連中ではなく、減らず口を叩きながらも、巨悪に挑むその様が、実にイイのであります。
 一種のチームものとしての味わいが…と前作の感想で述べましたが、その色彩は本作においてさらに強くなったように感じられるのです。

 しかしもちろん、物語を締めるのは昼兵衛の存在であります。
 上田作品ではお馴染みの口は出すが手は貸さないうるさいお偉方である林出羽守はおろか、その上の存在まで引っ張り出す昼兵衛の手腕を支えるのは、妾屋としての苛烈な覚悟。
 人の身を売り物とする彼であっても、いや彼だからこそ決して譲れぬものを汚そうとする者に対して一歩も譲らず、そして侍何する者ぞと公言してみせる彼の覚悟は、権力に溺れ、他者を踏みつけにする者たちへの強烈なカウンターであり、そしてそれが生々しい世界を描きつつも、むしろ爽やかな本作の読後感に繋がっているのです。


 さて、シリーズ最大の戦いもこの巻で落着しましたが、昼兵衛たちが「使える」ことを知った出羽守は、まだまだ彼らを離しますまい。その一方で、ついに己の八重に対する気持ちに気付いた新左衛門の想いの行方も気になるところ。
 本作を存分に楽しませていただいたのにすぐに申し上げるのも恐縮ですが、次なる展開が気になるシリーズであります。


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