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2013.10.08

「泣き童子 三島屋変調百物語参之続」(その二) おちか、外なる怪談会へ

 宮部みゆきの「泣き童子 三島屋変調百物語」の全話感想のその二であります。今回は、これまでとはいささか異なり、おちかがよその怪談会に出かけていくという趣向のエピソードであります。

「小雪舞う日の怪談語り」
 分量的には中編と言うべき本作は、冒頭に述べたとおり、おちかが他所のの怪談会で聞いたいくつかの怪談からなる物語。 これまでは自分が身を寄せる叔父夫婦の店・三島屋を訪れる客から怪談を聞いていた彼女ですが、本作では存じ寄りの目明かし・半吉親分に誘われて、とある札差が年の瀬に開いているという怪談会の客となるのです。

 と、ここで雪と怪談会といえば思い浮かぶのは岡本綺堂の「青蛙堂鬼談」。あちらの舞台となったのは雪がはげしく降る春の日、こちらは小雪舞う年の瀬という違いはありますが、作者は当然意識してのものでありましょう。その証拠というのもなんですが、この怪談会の各話の冒頭には「第○の男は語る」と、「青蛙堂」でもお馴染みのあの簡潔にして妖気漂う文章が用いられているのですから…


 さて、第一の男の話は、普請道楽だった父がかつて建て増しした家にまつわる怪異であります。奇怪な夢を見るようになったことから、凶兆である逆さ柱をしてしまったのではと疑う大工の棟梁の言葉に耳も貸さず完成した家。そこでは、次々と家の者が存在するはずのない部屋に迷い込み、そこで不気味に自分の名を呼ぶモノの声を聞くのですが…

 このシリーズで家にまつわる怪談といえば、なんと言っても第一弾の「おそろし」に収められた「凶宅」が浮かぶのですが、この物語も掌編とはいえなかなかに薄気味が悪い。
 ラストはある意味予想通りではありましたが、結局それが何だったのか闇の中というのがいやな余韻を残します。


 第二の女の話は、かつて自分の乳母が身重だった時に経験したとある橋にまつわる怪異談。その橋を一人で渡った時に転んではいけない、そしてその時に誰かの助けを借りてはいけない――そんな奇怪な言い伝えのある橋の上で禁忌を破ってしまった彼女は奇怪な世界に迷い込み、そこで現世に戻るためにある選択を迫られることとなります。

 なんと言っても奇怪な異界描写が印象に残るこの物語。理由も正体も全くわからぬその怪異は、多くの魔所と呼ばれる場所がそうであるように、理不尽にそこに迷い込んだ者を襲うことになります。
 しかしこの物語で描かれるのは、その理不尽に負けない、ある強い意志の存在。理不尽な怪異同様、それに負けない人の善き心の存在を描くのは、作者の得意とするところだと再確認した次第です。


 第三の男が語るのは、見えぬ右目で人の病を「視る」能力を持っていた母にまつわる物語。人の病を一種のオーラとして視る力を持つ人間の話はほかでも聞いたことがありますが、面白いのはここでのその能力の使われ方であります。
 藩を二分する派閥争いに悩まされていた男の父が、どちらに付くか悩んだ挙げ句に頼った妻の能力。その使われ方は、おそらくは正しいものとは言いがたいものではありますが、しかし何となくそれに同情し、納得してしまうのはこちらも勤め人ゆえでありましょうか。


 諸般の事情により第四の物語は飛ばされて、第五の男として語るのは半吉親分。まだ駆け出しだった時分に、ある病の男が療養する家に住み込みの仕事を与えられた彼は体が下から上に向かって真っ黒に染まっていきつつある奇怪な男の姿を見ることとなります。
 実はその男は、若い頃にさんざん人を泣かせてきた悪評高い岡っ引き。半吉はすぐに、男の体がどうやって黒く染まっていくのかを目の当たりにすることに…

 まさしく因果応報とも言うしかないこの物語ですが、その怪異自体もさることながら、そこまで至らせた男の過去を想像すると、何ともこちらの気持ちを重く暗くさせるものがあります。しかしそれでも見逃せないのは、そんな男に対しても善意を向ける者の存在であり――そこに小さな希望、というより人の世の複雑さを感じてしまうのであります。


 と、全四話からなる怪談会でありましたが、冒頭と最後に描かれるのは、その行き帰りにおちかが出会った小さな不思議。
 いかにも甘い、イイ話ではあるのですが、それまで暗い話、黒い話もあっただけに、たまにはこういうのもよいでしょう。


 もう一回続きます。


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