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2013.10.02

「近代異妖篇 岡本綺堂読物集」 傑作怪談集の拾遺

 現在中公文庫で刊行中の「岡本綺堂読物集」の第三弾、怪談集の名品たる「青蛙堂鬼談」の拾遺ともいうべき「近代異妖篇」であります。

 「青蛙堂鬼談」は、ある雪の夜に開かれた怪談会で語られた作品を綴るという趣向でシリーズ連載された怪談集でありますが、本書はその拾遺、続記編という設定の怪談・奇談集です。…ではあるのですが、実際は個別に発表された作品を、上記の設定でまとめた作品集であります。
 それ故か、作品集としての統一感は「青蛙堂」に一歩譲るものがありますが、個々の作品の完成度は劣るものではもちろんありません。

 それは、収録された作品のタイトルを見れば一目瞭然でしょう。
「こま犬」「異妖編」「月の夜がたり」「水鬼」「馬来俳優の死」「停車場の少女」「木曾の旅人」「影を踏まれた女」「鐘が淵」「河鹿」「父の怪談」「指環一つ」「離魂病」「百物語」
 …いずれも怪談ファンであれば、タイトルを見ただけで胸が躍る(?)作品群であります。

 全体の趣向としては、集全体のタイトルにあるとおり、「近代」の――と言っても、綺堂にとってはむしろ「現代」の――作品が多く収録されていますが、「影を踏まれた女」「鐘が淵」「離魂病」「百物語」など、江戸時代を舞台とした作品も収録されているのは、これは冒頭に述べた事情があるものの、これもまた、地続きの時代の物語として見るべきでありましょう。
 少なくとも、「青蛙堂」から続く怪談会の掉尾を飾る作品として、怪を語れば怪至るを地で行くようなタイトルもそのものズバリの「百物語」を収録しているのは、まことに心憎い趣向というほかありません。

 ここで収録作品一作づつは取り上げませんが、今回改めて作品集として通読してみると、やはりそのレベルの高さに(まったく今更ではありますが)驚かされます。
 たとえば「河鹿」など、怪異を描く部分はごくわずか、しかもそれも非常に地味なものではあるのですが(それもあってこれまでは評価が低かったのですが)、そこに至るまでの状況描写の丹念な積み重ねが、その怪異の一瞬に実に効果的に働いて一気に怖さを花開かせる様などは、綺堂ならではの技と言うべきでしょう。

 本書は今年の四月に刊行されたものであり、すでに怪談の季節は過ぎたようにも思えますが、「月の夜がたり」「影を踏まれた女」など、まさに今の季節に読むべき作品も収録されており、秋の夜長に読むのもまた、大いにふさわしい一冊であります。


 なお、この中公文庫版の岡本綺堂作品集には、それぞれいわばボーナストラックとして単行本未収録作品が収められているのですが、本書においては「雨夜の怪談」「赤い杭」の二編を収録しています。
 前者は、本書の収録作品と重なる部分も多いのですが、後者は今読んでも新鮮、かつ今この時代こそ読みたい震災後怪談の名品。いかにも綺堂怪談らしい落ち着いた空気と、一種理不尽な「わからなさ」に満ちた作品で、これがこれまで単行本に収録されていなかったのが信じられない、というのが正直な印象であります。


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関連記事
 「青蛙堂鬼談」(その一) 多種多様の怪談会の幕開け
 「青蛙堂鬼談」(その二) 見えぬ怪異と見える怪異と
 「青蛙堂鬼談」(その三) 綺堂怪談の中のエロティシズム
 「青蛙堂鬼談」(その四) 現代、過去、異国を結ぶ怪談

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