「韓流夢譚」 ○○封印いま破る!?
かつて従軍僧として朝鮮に渡った老僧・慶念は、藩の重役の頼みで自らの手記「朝鮮日々記」を提供するが、相手は手記の内容を捏造せんとしていた。拒んだものの、奇怪な朝鮮妖術により、女妖術師と精神を交換されてしまった慶念。敵の手から必死に逃れんとする彼を救ったのは、隻眼の剣士だった…
本作は「小説野性時代」10月号の歴史・時代小説特集に掲載された荒山徹の新作短編でありますが――タイトルの時点で既に誰も止める人がいなかったのか頭を抱えたくなってくる作品であります。
(頭を抱えたくなった理由については「風流夢譚事件」などのキーワードで検索していただければと思います)
そんな本作の主人公は、かつて秀吉の朝鮮出兵時に蔚山の籠城戦を目撃した一向宗の老僧・慶念。そこで朝鮮国王を憎んで日本軍に投降した民(ここで元ネタで問題となった描写が、固有名詞を入れ替えただけでほとんどそのまま使われるという大冒険)と出会ったことなどを手記に記録した彼は、それが元であまりに数奇な運命に巻き込まれることとなります。
戦の遙か後、臼杵の史誌を編纂しているという藩の重役・栗城兵庫にその手記「朝鮮日々記」を提供した慶念ですが、兵庫はなんと朝鮮に忠誠を誓う秘密組織の一員。彼は手記の内容に日本軍の残虐行為が足りないと内容を捏造し、慶念にその通りに書き換えさせようとするのですが、もちろん慶念がそれを肯うわけがありません。
しかし兵庫にはとてつもない奥の手が。朝鮮から女妖術師・梨花を連れてきた兵庫は、慶念に奇怪な仮面を被せて…と、これはもはや伝説の妖術・ノッカラノウム!
まさかの妖術により梨花と精神交換された慶念は、梨花の姿のまま何とか逃げ出すのですが、彼に迫る兵庫の魔手。が、偶然そこに通りかかった一人の剣士が慶念を救うことになります。
そう、隻眼で、「十兵衛」という名前を懐かしがり、かつて自分もノッカラノウムされたことがあり、しかし誰かが勝手な宣言をしたおかげで自分の名前を明かしてはならない剣士――って先生。
この後、慶念はこの謎の剣士らの助言を得て、自らの体を取り戻すべく立ち上がるのですが…これ以上はさすがに伏せておくべきでしょう。
というより、既にこの時点で腹一杯と申しましょうか…問題のありそうなパロディの二連発にノッカラノウム、そして封印されたあの剣豪の登場と、短編ながら、ある意味荒山ファン的にはフルコースな内容であります。
…が、この手法が一般読者にどう映るか、というのはやはり別問題でありましょう。平たくいえば、「○○○両断」を読んでいない読者にはやはりついていけないのではないか、という印象が強くあります。
さらに言えば、色々と難しい題材に、(こうした表現で好きではありませんが)ネタ度的要素をぶつけて中和するという、荒山短編にしばしば見られる手法の持つ一種の危険性――どれほど偏った内容であっても、ネタに紛らわせて読ませてしまう――も、このご時世では気になるところではあります。
この辺りは、作者の「良心」に期待するしかないとは思いますが…
いずれにせよ、色々な意味での問題作、と言うべきでありましょうか。
…しかし先生、誰も怒りませんから、封印はもう解いてもよろしいのではないでしょうか。
「韓流夢譚」(荒山徹 角川書店「小説野性時代」2013年10月号掲載) Amazon

| 固定リンク

コメント