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2013.10.12

「流れ木」 その男の探し求めたもの

 既に次の号も出た頃に恐縮ですが、「小説現代」9月号に掲載された小松エメルの新撰組もの短編、5月号に掲載された「夢告げ」に続く第2弾であります。今回主人公となるのは、近藤勇の養子となった近藤周平(谷周平)。思わぬ運命の変転に流されるままの彼の抱く想いが描かれることになります。

 その養父の華々しい武名に比べて、養子であった周平の名は、残念ながら新撰組ファンにはほとんど知られていないのではないか…と言っては失礼に過ぎるでしょうか。
 谷三十郎と万太郎、二人の兄とともに新撰組に参加し、近藤の養子となった後の池田屋事件でも報奨金を得ているものの、それ以外の新撰組隊士としてのエピソードらしいエピソードはないように思われます。
(二人の兄がいわゆるぜんざい屋事件で活躍しているのですが…)

 個人的には近藤周平と聞くと、「新選組!」で彼を演じた浅利陽介の線の細いビジュアルが浮かんでしまうのですが…

 さて、本作の周平は、美貌の持ち主で、黙っていても女たちが寄ってくるというキャラクター。それが元で家を潰した(という説が本作では採用されている)兄の万太郎同様、女性にはだらしない人物として描かれます。
 が、そんな女たちとの戯れに溺れる周平の胸の内にあるのは、あまりに大きな空洞とでも言うべきもの。
 ある日突然近藤の養子となり、周囲の隊士からは嫉妬と羨望に晒される。近藤や幹部たち、兄からは期待をかけられる。全ては己が望まないまま…
 そんな状況に置かれた彼は、自分の居場所――言い換えればあるべき自分の姿を求め、さまようのであります。

 上で述べたように、周平に関して少なくとも私が知るところは大してありません。それゆえ、彼がどのような人物であったかを知る術もありません。
 しかし、わずかに記録に残った部分から考えれば、そうもあろうと――彼が、周囲が本作のような想いを抱くことは大いに納得できる、いや、大げさに言えばこれ以外なかろうとすら感じるのであります。

 そしてまた、彼の抱いた想いが、多かれ少なかれ、現代に生きる我々もまた同様に抱くものである…と言えば、それはさすがに言いすぎ、というより本作の彼に対して失礼でありましょう。


 ファンタジックな要素のあった前作と違い、本作はあくまでもストレートな時代小説であります(ちなみに、前作でユニークな個性を見せたキャラクターが今回もちょい役で登場)。
 しかし、己の居場所――もちろんそれは、物理的な場所のみを意味するものではありません――に迷う若者を描いたという点でいえば、前作の系列に属する物語でありましょう。
 そして、いささか悪趣味に聞こえるかもしれませんが、次なる若者の登場にも、期待したいと感じているところなのであります。


「流れ木」(小松エメル 「小説現代」2013年9月号掲載) Amazon
小説現代 2013年 09月号 [雑誌]


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