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2013.10.14

「流動の渦 お髷番承り候」 二つの骨肉の争いの中で

 上田秀人の「お髷番承り候」も早いものでもう第7巻。気がつけば、現在進行中の上田作品の中では最長のシリーズとなりました。しかしまだまだ続く徳川家綱と深室賢治郎の苦難の道のり。将軍後継を巡る暗闘はなおも続き、賢治郎もまた、自身の骨肉の争いに巻き込まれることとなります。

 五代将軍の座を巡り、いよいよ激化する甲府綱重と館林綱吉の暗闘。綱吉の愛妾・お伝の方の実家である黒鍬者が前作のラストで綱重の生母・順性院を襲撃したことで、事態は思わぬ方向に転がることに。
 九死に一生を得たものの、愛する順性院が殺されかけたことで激怒した用人・山本兵庫は、黒鍬者たちを次々と暗殺。それに対して黒鍬者が報復として兵庫を襲撃し、さらに兵庫が伊賀者を雇って対抗…と、争いは果てしなくエスカレートしていくことになります。

 本作のかなりの部分を割いて描かれるのは、この甲府と館林の代理戦争とでも言うべき状況。これまでは足の引っ張り合い(といっても洒落にならないものもありましたが)で済んでいたものが、今回はついに死者続出の争いにまで発展し、権力の亡者たちの度しがたさというものが嫌と言うほど伝わってくる展開となっております。
(そこに、不遇自慢では甲乙つけがたい黒鍬者と伊賀者の争い、さらには伊賀者内部のそれも加わって…)

 そんな中、黒鍬者たちの死、そして順性院の襲撃を知った賢治郎は、家綱より真相究明を命じられるのですが、その任に当たるのもそこそこに、彼が巻き込まれたのは、自身にまつわる噂が起こした波瀾であります。

 前作で紀伊頼宣の命を救ったことにより、頼宣から二千石の加増を宣言された賢治郎。それを聞きつけた義父・作右衛門がこのことを吹聴して回ったことで、賢治郎が異数の出世を遂げるという噂が江戸城を駆け巡ることとなります。
 それに焦りを募らせた賢治郎の異母兄の松平主馬は、ついに最後の手段に出ることに…

 と、骨肉の争いに苦しむ主君を助けるどころか、自分が骨肉の争いに翻弄されることになってしまった賢治郎。周囲には手本とすべき大人物も少なくない賢治郎ですが、本シリーズにおける二大(?)小人物を身内に持つと本当に苦労されるものであります。

 一方、その大人物のほうで印象に残るのは、阿部豊後守忠秋の存在であります。松平信綱とともに家光・家綱を支えてきた忠秋は、賢治郎にとっては厳しくも偉大な師匠のような存在。今回も、賢治郎に寵臣のなんたるかをたたき込むのですが…しかし、それだけではない腹芸が、大人物の大人物たる由縁でしょうか。

 本シリーズは賢治郎の成長物語としての要素が強い…というのは以前にも述べたように思いますが、それと同時に、信綱・忠秋・頼宣と、彼の師とも言うべき先人たちの人となりを描き、彼らの言動を通じて、政を行う者の資質・覚悟を本シリーズは描いていると言えましょう。
 その意味では、今回の忠秋の行動、さらには忠秋による頼宣論などは実に面白く、特に後者は、上田作品のキータームとも言うべき「継承」を軸に頼宣像を論じており、強く印象に残ります。


 物語展開でいえば、他の作品に比べると正直なところ地味に感じられる本シリーズですが、この辺りの面白さは、本シリーズならではのもの――と再確認した次第です。


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流動の渦: お髷番承り候 七 (徳間文庫)


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