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2013.10.10

「大江戸もののけ拝み屋控 ろくヱもん」 明るく、激しく、恐ろしいニューヒーロー見参編

 江戸の辻に立つ拝み屋・辻風の六、通称ろくヱもん。一度頼まれたらいかなる妖怪・魔物・祟り神でも必ず祓うという彼は、ある日侍姿の猫神・ちま又を背負った少女と出会う。彼女が大妖怪・のびあがりに狙われていることを察知した彼は、ちま又とともに彼女を守るために立ち上がるのだが…

 すっかりコンスタントに刊行されるようになった妖怪時代小説ですが、今年このジャンルで大車輪の活躍を見せたのは朝松健でしょう。そしていくつもの妖怪時代小説シリーズを抱える作者の最新シリーズが本作「大江戸もののけ拝み屋控 ろくヱもん」であります。

 タイトルロールのろくヱもんは、本作の主人公、江戸の逢魔ヶ辻と呼ばれる地に立っては不幸に泣く人々を一目で見抜き、その身に取り憑いたもののけを祓う拝み屋。
 普段は飄々として子供に囃し立てられても笑っている温厚な人物ですが、実はいかなる妖怪・魔物・祟り神でも必ず祓うと言われる凄腕であります。
 このろくヱもん、俗に言う隠亡堀の辺りに立つ、仙台高尾の曰くつきの魔天屋敷なる屋敷に妖怪たちと楽しく共同生活を送っており、第六天魔王の遠い親戚などと嘯くだけはある謎多き人物なのです。

 と、そのろくヱもん初お目見えの今回は、大妖怪・のびあがり相手に大活劇を繰り広げることとなります。
 夢のお告げで辻に立った彼が出会ったのは、背中に小さな猫神を背負った少女・お喜代と、彼女につきまとう謎の女形・澤村美十郎。その猫神――虎縞長尾守ちま又之助強髭から、お喜代の先祖がかつてのびあがりを封印したこと、そして封印が解かれたのびあがりが彼女を狙っていることを知ったろくヱもんは、自らのびあがりを倒し、お喜代を守ることになるのですが…


 という内容の本作は、冒頭に述べたとおり妖怪時代小説は既に自家薬籠中のものである作者らしい作品。
 シリーズ第一作ということで登場人物(妖怪)や設定の紹介にかなりの部分が費やされていることもあり、物語自体は比較的シンプルではありますが、その分最後までテンポ良く物語は進んでいきます。

 特にいかなるピンチにも飄々とした空気を漂わせるろくヱもんと、生意気に振る舞ってもどうにも可愛らしい駆け出しの猫神であるちま六、さらに魔天屋敷の住人たちの掛け合いは、一種お約束でありつつもやはり実に楽しい。
 それでいて、むしろ妖怪というより怪獣的な巨大感のあるのびあがりとろくヱもんの激突は、こちらのイマジネーションを大いに刺激してくれる迫力で、この辺りの緩急のうまさは、まさにベテランの味でありましょう。

 しかし個人的には何より嬉しかったのは、ラストの決戦場が、邪悪な、倒錯した遺志が込められた文字通り舞台であるという点であります。
 この辺りの魔術的趣向は、作者の原点であるオカルトホラーの味わいが濃厚に感じられるもの。ここには、装いは明るく軽快となっても決して変わらぬ、作者のホラー作家としての根っ子の部分を見せていただいたように感じた次第です。

 明るく、激しく、恐ろしく…なかなかに理想的な妖怪時代小説ではありませんか。主役コンビ以外の脇役にもユニークな顔ぶれが揃っており、次回作にも今から期待しているところです。


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ろくヱもん: 大江戸もののけ拝み屋控 (徳間文庫)

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