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2013.10.07

「泣き童子 三島屋変調百物語参之続」(その一) 虚実重なり合う怪談という赦し

 宮部みゆきの連作時代ホラー「三島屋変調百物語」の第3弾であります。過去の事件がもとで心に傷を負った少女・おちかが、様々な人々の語る怪異談を聞いていくというスタイルの本シリーズですが、今回もそれぞれに趣向を凝らした怪談の数々が、語られていくこととなります。

 かつて婚礼を目前としながら、幼なじみに許婚を殺されたおちか。塞ぎきった彼女を預かった叔父の計らいで、訪れる客の語る怪談を聞くという、まさに変調の百物語を行うことになった彼女は、人の世の様々な怪異に触れるうちに、少しずつ明るさを取り戻していくこととなります。
 その変調百物語はもちろん本書でも続くこととなりますが、今回はこれまでと少々構成がことなることもあり、収録された全話を一話一話取り上げていきましょう。


「魂取の池」
 巻頭に収録されたのは、珍しくおちかと同年代の少女が語る物語。婚礼を前にして、いわゆるマリッジブルーとなった語り手に、母が自分の母(つまり彼女の祖母)の過去を語ったという趣向であります。
 タイトルの魂取の池は、語り手の祖母の実家近くにあるという、好き合った男女が行くと、必ず別れるという池。その言い伝え自体はよくあるようにも思えますが、ただ別れるだけでなく、男の側の気持ちが、女の側が嫌っている相手に奪われてしまうというのは、なるほど恐ろしい話ではあります。

 しかし語り手の祖母は、その池に二度までも夫(となる男)と行くことになるのですが…その二度目の皮肉な結果は、いささか教訓的ではありますが、しかし人間心理の一面を突いていると申せましょう。

 自分と同年代、しかもかつての自分のように婚礼間近の少女とも明るく言葉を交わせるようになったおちかの姿も嬉しい一編です


「くりから御殿」
 今回の語り手は、老境に差し掛かったある商人。幼い頃、郷里を襲った山津波で家族と幼なじみたちを一度に失い、地元の網元の屋敷に引き取られた彼は、そこで不思議な夢を見ることになります。
 それは、山津波に呑まれたままの幼なじみと、屋敷の中でかくれんぼをする夢。いつも鬼となって幼なじみを探す彼ですが、その翌朝には――

 このあらすじで察しがつく方もいらっしゃるかと思いますが、本作は一種の震災怪談。それもその震災は、我々がよく知るあの震災を思い起こさせます(ちなみに本作が発表されたのは二年前の七月)。
 正直なところ、本作で描かれる怪異――というよりもむしろ一種の奇蹟というべきでしょうか――は、ある意味あまりにもストレートで、鼻白む部分がないとは言えません。

 しかし、ベタとわかっていても物語の結末に待つものに感動させられてしまうのは、そこに、我々自身が望む「赦し」があるからにほかなりません。
 そしてそれを語ることによって語り手も同様に赦され、救われていく姿をみれば、そこに怪談というものの一つの機能があることを――そしてそれはそのまま、変調百物語のそれでもあることを、虚実を超えた実感として感じさせてくれる物語であります。


「泣き童子」
 人の紹介を受けてでなく、三島屋に行き倒れ同然で現れた、生きながらに死んだような目を持つ男が語る本作は、本書の表題作にしておそらくは最も恐ろしい物語でしょう。

 家守(長屋の管理人)だった男がかつて店子に世話した捨て子。三歳になると全く口をきかなくなり、そして時に狂ったように泣きわめくその子供を、ある事情から彼は預かることになります。
 その子供が何を恐れ、泣き騒ぐのか知った男。しかし子供が自分の娘を見て泣くようになり――

 不思議な子供を巡る一種の因縁譚とも言える本作ですが、しかし真の恐ろしさは、その巡る因縁以上に、子供が泣き騒ぐその理由(条件)にあります。
 頑是ない子供を心の底から恐れさせるもの――それが自分の傍らに、自分の中にあると知った時、人は平静でいられるものか。我が身に重ねて考えれば、その恐ろしさは幾層倍にも感じられます(そしてまたそれが、言葉ではなくただ泣き声でもってのみ示されるのがまたキツい)。

 結末が途中で読めてしまうのは難ですが、最後の最後の告白のインパクトはやはり絶大な一編であります。

 以下、次回以降に続きます。


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