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2013.10.16

「邪神艦隊」 真っ向激突、人類vs邪神!!

 世界各地の海で発生する奇怪な事件。一連の怪事の背後に、太古より地球を狙う邪神クトゥルーの存在があることを聞かされた日本海軍大佐・鬼神は、欧米列強とともに、邪神の眠るルルイエ攻撃を命じられる。しかし、邪神の想像を絶する魔手が連合艦隊に迫る…日本に、人類に打つ手はありやなしや!?

 架空戦記…それも大戦前を舞台とした作品であります。本来であれば、私の興味の範囲外の本作を手に取ったのは、作者が菊地秀行であり、日本軍が、いや世界各国連合軍が戦う相手が、クトゥルーであるからにほかなりません。
 なにしろ、菊池作品でクトゥルー、そして海戦といえば、あの神話作品史上における怪…いや快作「妖神グルメ」におけるダゴンvsカールビンソンの伝説の死闘があるわけで、これは期待するなという方が無理なのですが――なるほど期待以上の快作であります。

 太平洋を行く船に襲いかかる奇怪な有機体戦艦、帝都東京に暗躍する陀厳秘密教団(それを阻まんとするは大本の出口王仁三郎!)。東北の寒村に潜む邪神信仰に、世界各地を騒がす邪神の眷属。邪神と手を組まんと暗躍するナチスドイツ――
 クトゥルー者であれば、どの要素をとってもテンションが上がる要素で構成された本作は(ところどころ生焼けの部分が残っていはしますが)作者一流の味付けとサービス精神で料理され、こちらを思う存分楽しませて・くれるのであります。

 しかし、本作最大の魅力、そして何よりも本作が架空戦記でなければならない理由は、本作で描かれるものが、人類と邪神の、正面切っての激突である点でありましょう。
 それも、魔術や妖術といった相手の土俵に乗るのでも、一発撃てば片が付く(かもしれない)核兵器など無粋な代物を使うでもなく――ただ真っ正面からの火力のぶつかり合いという形で。
(もっとも、それ以外の力のフォローもありはしますが…)

 そしてそれは、言い換えれば、本作で邪神に挑むのが、あくまでも普通の人間であることを意味します。なるほど、本作の主人公たる鬼神大佐、その謎めいた相棒(?)たる宮内省の山田侍従は、いかにもヒーロー的な造形ではありますが、しかしその能力や感覚自体はあくまでも常人でしかありません。――彼らとともに戦い、散っていく日本の、世界各国の人々もまた。

 そう、本作で描かれるのは、巨大で理不尽な悪意に屈することなく、地球に生きる者としての誇りと怒りを込めた人類からの痛烈で、そして尊い反撃の姿なのです。極論すれば、本作の架空戦記たる部分は、その怒りの拳に勢いをつけるエルボーロケットのようなものと言うべきでありましょう。

 もちろん、決して人類も誉められた存在ではありません。邪神という共通の、巨大な敵の存在を知っても、国と国は――その国民同士も――相手に不信を抱き、出し抜こうとし、そのためには邪神と結ぶのをよしとする者すらいるのですから。
 いや、何よりも、本作で人類の連合艦隊と激突するのが、邪神の魔力を込められたものだとはいえ、人類が作った戦艦や戦闘機といった兵器を模したものである点は、何よりも示唆的でありましょう(それには、人間と邪神を対等の土俵でドンパチさせるための計算ももちろんありましょうが)。

 しかしそれだけではない。それでも人間の中には…と、決して人間の善き心の存在を見捨てようとしない――我々菊地ファンが昔から心から愛する――作者の熱いロマンチシズムは、本作でも健在であります。


 題材や発表のタイミングから、とかく色眼鏡で見られがちな作品かもしれません(と、そんな見方をしていた当の人間が言うのも恐縮ですが)。
 しかし本作は、今後の神話作品史上に残るであろう人類と邪神の激闘を真っ正面から描いた作品であり――そして同時に、作者流の人類愛に満ちた快作であることは、自信を持って断言させていただきましょう。

 題材を詰め込みすぎて、消化不良の部分もなきにしもあらずでありますが、まずクトゥルーファン、菊地秀行ファンであれば、拍手喝采の作品であります。


「邪神艦隊」(菊地秀行 創土社The Cthulhu Mythos Files) Amazon
邪神艦隊 (The Cthulhu Mythos Files)

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コメント

以前別作品ではルルイエが浮上しただけでアメリカ艦隊が全滅する有様を描いた菊池先生が不慣れ?な戦記物を得意?のクトゥルー神話と絡めてどう料理するか楽しみです。

投稿: ジャラル | 2013.10.16 23:09

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