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2013.11.16

「大唐風雲記 3 The Last Emperor of 漢」 時を超えた先に見た三国時代の現実

 安禄山の反乱軍から長安の人々を守るため、則天皇帝が次に目を付けたのは諸葛孔明だった。竜導盤の力で蜀に跳んだ履児らだが、孔明は多忙すぎて会うことができない。一計を案じ、過去の彼に恩を売るためにさらに過去に飛んだ一行は、後漢最後の皇帝・劉協を守って旅する兄弟と出会う。

 唐代半ば、安禄山の乱が国を騒がせていた時代を舞台に、乱から長安の人々を守るために少女の姿で甦った則天皇帝と、方士見習いの履児らの時空を超えた冒険を描く「大唐風雲記」の第3弾です。
 タイトルは「The Last Emperor of 漢」。「漢」は「おとこ」ではなく国号の「かん」であります。

 これまで二度時空を超えたにもかかわらず、いまだに見つからない乱への対抗策。そんな中、盛り場での講談からヒントを得た則天皇帝は、かの大軍師・諸葛亮孔明をこの時代に招こうと思いつきます。
 かくて今回も履児とヒロインの麗華に則天皇帝、李白と楊貴妃、上官宛児(の幽霊)といういつものメンバーが集まり、時空を超える不思議なアイテム・竜導板で蜀に跳んだのですが、蜀の宰相閣下にほいほいと出会えるわけもありません。

 ここで一行は、過去の孔明に恩を売るため、彼がかつて命の危機にあったという時と場所に跳ぶのですが――辿り着いた先は、董卓の死後、彼の保護下に置かれていた後漢十四代皇帝・劉協を、董卓の部下だった武将たちが奪い合う戦場。
 そこで履児たちは、混乱の中から劉協とその后を救出し、曹操のもとに送り届けようとする大龍・小龍の兄弟と出会います。
 堂々たる体格で武術の達人の大龍、方術を操り優れた頭脳を持つ小龍、まだ若いながらも諸将の軍を巡りその人ありと知られてきた二人は、今後の中原を託せる者の候補として、曹操に目を付けていたのでありました。

 行きがかり上、兄弟や皇帝と同行することになった履児たちは、追撃してくる軍から必死の逃避行を続け、ついに曹操と対面するのですが、彼が見た曹操の姿は――


 もともとそういう設定だったとはいえ、「過去の名将に頼ろう」と孔明を持ち出してくる辺りはちょっと架空戦記的な印象を受けますが、しかし実際に物語が展開されるのは孔明が活躍するよりも前の時代というひねりが楽しい本作。
 ストーリー展開的にはほぼ逃避行一本でシンプルではありますが、それだからこそ、その中に浮き彫りになるプレ三国時代の混沌と、皇帝すら例外ではなくその中で翻弄される人々の姿は、綺麗事でなく印象に残ります。

 そもそも履児たちが三国時代に向かったのは、先に述べた通り講談を聴いたのがきっかけなのですが、言うまでもなくそれは「演義」の世界。既に唐代ですらエンターテイメントの題材となっていた三国志の世界――迫る戦争に危機感を募らせる彼らですら、戦争を娯楽として消費するという皮肉!――の、いわばナマの側面が、その講談と対比されるように履児の前に展開されるという構成もなかなか巧みに感じます。
(さらにそれがラストで孔明と対面した彼らの選択に繋がるというのもいい)

 ただし、前作まで――というより特に第1作が――時空を超えた先と「現在」との結びつきを踏まえた上での物語であったのに対し、本作は「現在」との結びつきが、その虚構と現実というレベルに留まっているのがやはり物足りない。
 そのために、厳しいことを言ってしまえば時空を超えた先での冒険が一種の他人事に感じられてしまうのですが…


 いまだ長安を救う術は見つかっていない中、この辺りを解消した続編は…さすがに難しいのでしょう。
 なかなかに異彩を放つシリーズであっただけに、やはり残念に感じます。

「大唐風雲記 3 The Last Emperor of 漢」(田村登正 メディアワークス電撃文庫) Amazon


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