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2013.11.11

「鬼舞 見習い陰陽師と応天門の変」 ついに交わる史実と虚構

 都を次々と襲う怪事に陰陽師(見習い)たちが挑む「鬼舞」シリーズも、いよいよ現在進行中の「呪天編」がクライマックス。敵の正体と狙いがいよいよ明らかとなる一方で、主人公・道冬は周囲の状況と自分の中の得体の知れぬ力に振り回される一方ですが…

 自分の娘を帝に嫁がせようとする貴族たちの熾烈な入内争いが展開する中、その候補者たちを襲った凶暴なスズメバチの群れ。
 実はこのスズメバチ、かつて民間陰陽師の手により火の宮を狙って行われた犬蠱の犬の肉を喰らい、その呪いを取り込んだものなのですが…

 ある意味自然現象的に誕生したこの呪いの虫を、都を騒がす鬼――呪天が手に入れたことで、いよいよ事態はややこしいことに。
 強い負の念を持つ者を鬼に変える力を持つ呪天により、鬼と化したスズメバチ。その魔力に操られ、堀河の関白は次第に常軌を逸した言動を見せるようになっていくのであります。

 そんなこととはつゆ知らず、身辺警護の名目で女装させられ、女童の「冬路」として中宮のもとに通うことになった道冬。帝に見初められて入内させられそうになるわ、天敵の学生・大春日と何となく微妙な雰囲気になるわ…と、相変わらずの愛され体質(ただし人間の女性除く)であります。

 いや、それはさておき、この「鬼舞」という物語の冒頭から描かれ、そして前作においてようやくその存在が明確に描かれるようになった道冬の中の「漆黒」は、この巻でも不気味に蠢動。ともすれば自分の意思を無視して発動しかねないこの力に、いまだ彼は振り回される状況にあります。
 そして、その力に引きつけられた呪天は道冬に接近、自分の過去を語り始めるのですが――そこで本作のタイトルに繋がっていくことになります。

 歴史上の人物が多々登場するものの、これまで(おそらくは意図的に)史実との関わりを描いてこなかったこの物語において、ついに描かれ始めた史実との関わり。
 そこに描かれる怨念の系譜は、これまで時に物語の遠景として、時に(特に最近は)物語の舞台として描かれてきた、藤原氏による摂関政治の、その暗部にまつわるものであります。

 非常に生々しく、厳然たるこの「史実」に、道冬ら陰陽師見習いたち、そして呪天ら鬼たちといった「虚構」がどのように切り込んで見せるのか。
 物語の本筋はもちろんのこと、こうした構造にも興味を持っているところであります。

 それにしても、冒頭で触れた通り「呪天編」はいよいよクライマックス、次巻で完結とのことですが――この展開で、あと一冊で終えることができるのか、その辺りも大いに気になるところ。
 呪天との決着は、道冬と漆黒の対峙は、そして晴明と道満の過去は…どこまでが明らかになるかわかりませんが、クライマックスにふさわしい展開を期待しているところです。


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