« 「真田十忍抄」 超人十勇士の戦いが向かう先は | トップページ | 「くノ一、百華」(その一) くノ一の非情、時代の無情 »

2013.11.29

「王子再臨」 王子と戦国ディストピア

 水分国の剣術指南番・阿東弥五郎は、ある晩、湖の底から現れた王子と出会う。その美で数々の奇跡を起こす王子を崇拝し始める弥五郎の主君・鷹久ら。その姿に危険を感じる弥五郎だが、果たして王子は美の名の下に狂気の圧制を行い始める。さらに、聖女を名乗る美少女に率いられた奇態な一団も現れ…

 再びの王子であります。戦国の弱肉強食の世に天から降臨し、その美の力で悪を打ち砕き、無辜の人々を救った王子が帰ってきたのです。
 邪悪な魔女たちに追われて地球に落ち延びたという愛しの姫を求めて、はるかアンドロメダ銀河の光の国からやってきた王子。その美しさ、美力を武器にして、かつて岐賀国で暴政を行っていた悪大名を倒した王子が、今度は奸臣による陰謀渦巻く山中の小国・水分に現れたのですが…しかし、今度の王子はちょっと、いやかなり黒い。

 その王子と水分国で初めて出会ったのは、領主を継いだばかりの少年・鷹久と、彼に仕える剣豪・弥五郎。かつて天人が降りたったという伝説の残る湖から一糸まとわぬ姿で現れた王子と出会った二人は、王子を胡乱な者として地下牢に繋ぐのですが…
 そこで王子がその美で起こしたのは、生物の遺伝子すら変えてしまう奇跡としか思えぬ現象の数々。彼を伝説の天人の再来と信じるようになり、熱い眼差しを向ける鷹久ら城の人々ですが、一人弥五郎のみは、鷹久の視線を独り占めする王子への嫉妬もあってか(ってまたこういう展開か!)、警戒心を抱くのですが――

 しかしそんな弥五郎を襲ったのは、水分国を簒奪しせんとする奸臣の罠でありました。剣術指南番の地位を奪われ、城を追われて一度は死を決意した弥五郎。そんな彼の前に現れた聖女と呼ばれる天竺風の美少女・ランガは、王子がいかに危険な存在であるかを説きます。
 そして彼女の言葉を、弥五郎の予感を裏付けるように、王子の言葉によって次第に混迷の度合いを深めていく水分国。国に美しさを広めるため、そして湖に沈んでいるという姫の乗ってきた船を引き上げるために、民を酷使し、武士たちを狂わせていく王子。王子の美の前に、水分国は狂気と疑心暗鬼が支配する地獄へ変わっていくこと…


 絶対的に美しく、正しいと思われた王子。前作の活躍を見れば、今回も王子がどこかの国で、民を苦しめる悪人を討つ痛快な英雄譚が描かれるものと思いこんでいたのですが――あに図らんや、描かれたものは恐るべき戦国ディストピア譚であったとは。

 「美」に価値を見いだし、それを実現しようとする王子。しかしその情熱は、裏返せば美しくないものへの蔑視と排除に繋がっていきます。美しき国を実現する――その大義名分のもとにもののごとく消費され、しかし王子に命じられることに喜びすら感じる民衆。王子の命じるままに民衆を酷使して恥じることなく、ただ王子の目だけを意識する武士。

 いかにもこのシリーズらしい過剰な、コミカルな表現を交えつつも、人々が己の意志というものを失い、ただ王子の美に流され、狂気に陥っていく様を執拗なまでに積み重ねていく本作は、半ば不意打ちに近いものがあっただけに、異常な恐ろしさをこちらの胸に打ち込んでくるのであります。

 前作で絶対のものとして描かれた王子の美しさ。それは王子を応じたらしめるものであり、シリーズの大前提、絶対的価値観と呼ぶべきものであったはずですが――
 それを第2作目にして軽々と覆して相対化し、美しさの、一つの価値観に溺れることの危険性を提示してみせるとは、いやはや、作者のくせ者ぶりに驚かされます。
(そして水分国の姿に重なって見えるのは…)

 もちろん、そうした全てを乗り越えたところに真の美はあります。美は単に美のためにあるのではなく、美は単に美によって美たるのではない。そんなクライマックスの展開には――ここで示されるタイトルの真の意味も含めて――必ずや、心熱くさせられることでしょう。


 と、ついついお堅い琴ばかり書いてしまいましたが、時代ものとしての勘所をきっちりと押さえつつ――王子+αの異物を除けばきっちりと時代ものしつつ――クソ真面目な表情でとんでもないホラを吹くというスタイルは、本作でももちろん健在であります。
 特にランガに仕える修行僧の一人・天禅の天竺忍法<ケイ惑襲来>は、なるほど、そのネーミングにはそんな意味が! と愕然とさせられること請け合いの、時代劇史上空前絶後の怪技。王子によるその破り方も含めて、必見としか言いようがありません。

 その華やかな外見に騙されると、その秘めた熱く、濃い物語で火傷させられる。そんな王子そのもののような本シリーズ。その三度の降臨に期待せずにはいられません。


「王子再臨」(手代木正太郎 小学館ガガガ文庫) Amazon
王子降臨 2 王子再臨 (ガガガ文庫)


関連記事
 「王子降臨」 王子、戦国の荒野に立つ

|

« 「真田十忍抄」 超人十勇士の戦いが向かう先は | トップページ | 「くノ一、百華」(その一) くノ一の非情、時代の無情 »

コメント

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)




トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.cocolog-nifty.com/t/trackback/13655/58637520

この記事へのトラックバック一覧です: 「王子再臨」 王子と戦国ディストピア:

« 「真田十忍抄」 超人十勇士の戦いが向かう先は | トップページ | 「くノ一、百華」(その一) くノ一の非情、時代の無情 »