「真田十忍抄」 超人十勇士の戦いが向かう先は
関ヶ原の戦で敗れた真田昌幸・幸村父子。しかし徳川家康は不倶戴天の敵ともいえる二人を九度山への配流に留めた。その背後には、真田家に力を貸す、ある一族の存在があった。その超技術を手にした幸村は、真田家を守り、支える腕利きの忍びを集めていた。その数、十人――
かつてKKベストセラーズの「一個人」誌に連載された、菊地秀行の時代伝奇活劇が単行本化されました。タイトルに明らかなとおり、本作の中心となるのは真田の十人の忍び――そう、真田十勇士であります。
今年から来年にかけて二度も舞台の題材となるのを見てもわかるように、真田幸村と彼に仕えた十勇士の存在は、今なお人口に膾炙した人気者。もちろん立川文庫まで遡るまでもなく、活字の世界でも幾多の十勇士が描かれてきましたが、本作はその最新の作品であります。
本作の基本的な舞台となるのは、関ヶ原の戦(の数年後)から、大坂の陣の直前までの期間。これが真田家にとっていかなる期間であったかといえば、関ヶ原で破れた幸村が九度山に配流され、そしてそこを脱出するまでの期間です。
つまりは、本作の舞台の大半は九度山周辺に留まるのですが――しかし、そこで繰り広げられるのは、いかにも作者らしい、超人たちによる魔戦の数々なのであります。
そもそも二度にわたる上田城での戦いにおいて、寡兵で散々に徳川軍を翻弄してきた真田昌幸が、いかに嫡男が徳川家に仕えていたからといって、九度山への配流で済まされたのは、冷静に考えれば不思議な話。もちろん様々に説明はつくのだとは思いますが、本作はその中でも最も奇想天外で、そして魅力的な説を採用します。
そう、真田家には遙か太古にこの国を訪れたある一族が助力し、彼らに与えられた超技術を家康が恐れたためだと。そして家康もまた、真田家の背後にいるのとは別の一派に支えられていたのだと。
かくて、本作における十勇士は、当時の科学水準を遙かに超えた超技術と魔人の技量を持つ者たちとして登場します。
不可視にして鋼をも断つ糸を操り、自在に宙を舞う猿飛佐助(任務のためであれば女子供を躊躇いなく犠牲にする精神と、不思議と陽性の個性の同居が面白い)。女性を自在に操る根津甚八、あらゆる飛び道具を持ち主に跳ね返す筧十蔵、剛力無双の三好清海に異様な美しさを放つ伊佐…
さらに、幸村の子・大助もまた、この時代にあり得べからざる連発銃を発明するなど、異常の才の持ち主であります。
本作で描かれるのは、彼ら十勇士+αが九度山に集結する過程と、彼らに匹敵する妖人である服部半蔵正就配下の忍びたちとの激闘。この辺りは、作者の自家薬籠中のものなのですが…
しかし惜しむらくは、本作は出版社側の都合で打ち切りとなったらしいこと(そもそも、単行本も連載時とは異なる出版社から刊行されているのですから)。
そのため、物語はそれなりの区切りはつくものの、正直に申し上げれば中途で――ある意味、序章が終わった段階で――終了している印象があります。
さらに申し上げれば、真田と徳川の激突が、結局は彼らそれぞれの背後に存在する謎の一族の代理戦争に留まってしまうように見えてしまうのが個人的には残念でなりません。
この辺りはこの先の展開如何では覆される可能性も仄めかされており、上記の事情に依る点も大きいとは思いますが、やはりどれだけ超絶の死闘であろうとも、どれだけ異形の力学が働こうとも、やはり歴史に決着を付けるのは表の世界の人間であって欲しい――
というのは個人的な好みではありますが(いずれこの辺りはきちんと語ってみたいとは思います)、その辺りまで踏み込んでいただけたら…というのは、偽らざる印象であります。
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