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2013.11.10

「桃時雨 ヨコハマ居留地五十八番地」 鬼と香炉と桃が導く先に

 横浜居留地で西洋骨董店「時韻堂」を営む深川芭介が、ある晩、店で好事家たちと行った交霊会。そこで呼び出されたものは、不穏なメッセージを残す。数日後、芭介は参加していた陶工から、ある香炉探しを依頼される。一方、税関に勤める芭介の親友・高澤の部下・田汲は、不思議な夢を見るように…

 明治中期の横浜居留地を舞台に、西洋骨董店を営む美貌の店主と仲間たちが不可思議な事件に巻き込まれる姿を描く「ヨコハマ居留地五十八番地」シリーズの第2作です。

 主人公・深川芭介は、歌舞伎役者のような整った風貌に西洋の血を感じさせるハーフの美青年。上に述べたように彼の本業は骨董商ではありますが、どこまでやる気があるのか、常に飄々とした態度を崩さず、それでいて三菱財閥の生みの親・岩崎弥之助などとも親しいという謎めいた人物であります。
 そんな彼の店に客でもないのに入り浸っているのは、横浜税関にその人ありと知られる俊英・高澤輝之丞。前作はこの二人が中心となりましたが、本作ではそこに高澤の部下で上司には似ぬクールな青年・田汲直ノ介も加わり、この三人がそれぞれの立場から、共通の事件に別々の角度から巻き込まれていく、という趣向であります。

 芭介が店の客人である好事家たちに頼まれ、ある晩行った交霊会でプランシェット板(西洋こっくりさん)が語った言葉。それは「われ、鬼になる」という、なんとも恐ろしげなもの。
 そしてその言葉に心当たりがあったのは、その場にいた陶工の老人――彼はかつて、実の息子とその友人のために全ての家財と娘を失った子爵夫人の依頼で、彼女の血を練り込んで鬼の香炉を作っていたのであります。
 交霊会でのメッセージがこの香炉にまつわるものだと考えた陶工の依頼でその香炉を探すこととなった芭介は、何かに引き寄せられるように、「鬼」に追われているという男と出会うことに…

 一方、税関の倉庫で陶製の桃を拾い、何の気なしに手元においていた田汲が夜ごと見るようになった、桃の花が咲き乱れる中に立つ花魁の夢。彼女に惹かれていく田汲は、徐々にやつれていくようになります。
 さらに高澤の方は、税関の倉庫から美術品が盗まれるという事件を追ううちに、香炉を骨董品屋に持ち込んだという男の存在を知ることになります。

 かくて三人三様に事件に巻き込まれた芭介たちは、やがて自分たちの関わっているそれが、一カ所に集約されることに気づくのですが…


 本作はいうなれば一種の時代ミステリかと思われますが、物語の中心となる過去の因縁についてかなり早い段階で明かされ、その後の事件との関わりもわかりやすいため、謎解きという点ではあっさりめではあります。
 しかし一見バラバラの出来事が一つに結びついてそこに一つの悲劇が浮かび上がるという構成はよく出来ていると感じます。そして何よりも、前回はほのめかす程度だった超自然的要素をはっきりと(と言っても雰囲気に破綻を来さない程度に抑制的に)取り入れることで、雰囲気を高めるとともに、より自然に物語が展開している印象があります。

 ただ難を言えば、メインの野郎3人の関係が明らかに狙ってきているのが、鼻につくところではあります(おかげで本来であればヒロイン的な立ち位置のはずの女性キャラの影が薄く…)。
 これはまあ、レーベル的に仕方ないのかもしれませんが、物語的にはなくても成立できるだけに…という印象ではありました。

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