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2013.11.18

「一鬼夜行 鬼の祝言」(その一) 最も重く、最も恐ろしく

 喜蔵が営む古道具屋・荻の屋に見合い話が持ち込まれた。相手は由緒ある家の跡継ぎだというが、この縁談が妹の深雪のためになるのか悩む喜蔵。しかし訪れた相手の屋敷には強力な呪いと妖怪たちの群れが。呪いを解くために奔走する喜蔵や小春たちだが、そのためにはある決断が必要だった…

 明治初期を舞台に、妖怪も恐れる閻魔顔の若商人・喜蔵と、元猫又の鬼で自称大妖怪の小春のコンビが出くわす事件の数々を描く「一鬼夜行」シリーズ、久々の、そして待望の新作であります。

 ある日突然荻の屋に大家が持ち込んできた見合い話。大家の押しの強さに、さしもの喜蔵もタジタジですが、しかしいくら年頃とはいえ、この話が妹の深雪にとって幸いかはわかりません。最愛の妹のため、店の付喪神たちをこき使って深雪の想いを確かめようとする喜蔵ですが…

 と冒頭で描かれるのは、毎度のことながら仏頂面、いや閻魔面の喜蔵と、妖怪・付喪神たち、そしてもちろん帰ってきた小春とのおかしなやりとり。しかし今回ばかりは喜蔵にとっても未知の領域だわいとニヤニヤしていれば、さらにその先に待っていた真実は――と、こちらはすっかりえびす顔であります。

 …が、この妖怪とのドタバタ騒動の楽しさが本シリーズの顔である一方で、人間と妖怪にまつわる重く切ない物語もまた、本シリーズの顔であります。
 そしてはっきり言ってしまえば、本作はシリーズでも最も重く、そして恐ろしい…そう感じます。

 すったもんだの挙げ句に縁談は進み、気に染まないまま、相手の屋敷を訪れることになった喜蔵と深雪、さらに小春に綾子に彦次と、いつもの面々。由緒ある家系だという相手の屋敷で待っていたのは、しかし無数の妖怪たちの群れでありました。
 縁談相手と自分が結婚してこの家を奪おうとしつつも、屋敷を守る結界の前に、喜蔵ら客に牙を剥くしかない妖怪たち。しかしその中には結界をものともせず、そして殺しても甦る不死身の妖怪が――

 そして喜蔵が聞くことになったのは、子に屋敷を巡る壮絶な因縁の数々。地の神の、水の神の、鬼の、妖怪の、人間たちの――様々な想いが入り乱れた末に、幾重にも呪いがかけられたこの屋敷は、すでにその大半があの世に繋がる、一大魔所と化していたのであります。
 その呪いの前に両親を失った縁談相手。しかしその呪いは、屋敷もろともに、本人をも飲み込もうと――

 ここで圧倒されてしまうのは、なんと言っても屋敷とその土地にかけられた呪いの強烈さ。神による強力な呪いに、それに抗しようとした鬼の力。その中にとけ込んだ妖怪の怨念と、鬼の血を引く人々の子孫を守ろうとする想い――物理的次元にまで作用する思念を呪いというのであれば、強烈な願いもまた呪いといえるでしょう。
 こうして幾百年もの間に積み上げられ、練り上げられた呪い――どう考えても人間一人の力で太刀打ちできるものではありません。
 そしてそれが血によって受け継がれるという、本人には責任のない理由で襲いかかるという、その理不尽さがまた恐ろしいのです。


 長くなってしまったので次回に続きます。


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