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2013.11.23

「王子降臨」 王子、戦国の荒野に立つ

 時は戦国。真壁弾正により死と暴力に支配された国で生きる孤児・鳶丸は、この世のものならぬ「美」を全身から放つ「王子」に助けられる。愛する姫を追いかけてきたという王子は、弾正の圧政に立ち上がった人々とともに、姫が囚われているという弾正の城を目指すのだが、その前に現れたのは…

 ライトノベルレーベルで刊行された時代ものは、タイトルで発見するのが難しい場合が多いのですが、本作はその最たるものでありましょう。
 なにしろ「王子」であります。その王子も、喩えではなく、どこからどう見ても王子――頭に冠を戴き、白いマントにかぼちゃパンツというお姿に、見る者を魅了してやまぬ無敵の美しさの持ち主、それが王子なのです。

 しかしこの王子、単なる美しさだけの柔弱者ではありません。そう、彼の武器は美しさ――「美気」を武器とするアンドロメダ流。王子の出身地であるアンドロメダ銀河は光の国に伝わる無敵の武術であります。
 …あ、いや、本当に時代ものなんです、本当です!

 本作の舞台となるのは日本の戦国時代、織田信長が天下布武への道をひた走っていた頃。そんな時代のとある小国、悪逆の大名・真壁弾正の暴政により、ヒャッハーな連中が支配する暴力の世界に、王子が降臨するのであります。
 王子の目的は、魔女たちにより滅ぼされた母国から地球に逃れてきた愛する姫を取り戻すこと。その姫が弾正の城に囚われていると知った王子は、その破格の強さと、奇跡すら起こすほどの美しさに惹かれて集まってきた領民たちの旗印として、弾正との対決に向かうこととなるのですが――

 しかし、弾正の城を守るのは、強大な力を持つ鋼の巨人・闇夜軒と電奇坊、さらには奇怪な剣法を操る覆面の怪人・綺羅星一羽。自分に匹敵する力の持ち主を前に、王子はいかに戦うのか、そして囚われの姫との再会は――


 このあらすじを見ただけでは、単に舞台を戦国時代に移しただけのファンタジーに見えるかもしれません。しかし本作の真に恐るべきは、そして真の魅力は、本作においてはあくまでも異物は王子(+α)のみであり、それ以外の舞台背景、登場人物は、みな真っ当な――ライトノベル的デコレーションは施されているものの――時代もののそれであることでありましょう。
 例えば、ある目的のため、女を捨てた悲しみを背負った盗賊団の女首領にして奇怪な忍法使い・暈魔蛾彩。あるいは、戦場往来の猛者という過去を持ち、蛾彩とはある因縁を持ちながらも、今は山寺の住職として暮らす寂邨。彼らはごく普通に時代ものの登場人物として登場して、全く違和感のない面々であります。
 さらには、綺羅星一羽の名と風貌がおそらくは戦国の剣豪・諸岡一羽を題材にしていること(さらに闇夜軒と電奇坊のネーミングの由来も、その兄弟弟子の真壁暗夜軒と斎藤伝鬼坊でしょう)など、本作は明らかに時代ものに明るい作者が、わかって無茶をやっている感があるのです。

 そしてそれは物語の文章にも現れます。王子のアンドロメダ流をはじめとして、作中に登場する超絶の技の数々の描写に込められたのは、一見馬鹿馬鹿しいものを丹念に(そして時に煙に巻きつつ)解説することにより、生まれるある種のリアリティ――優れた忍法もの、剣豪もののそれと同種のものなのですから。


 しかし本作で真に胸を打つのは、そうした派手で破格な設定と描写に彩られつつも、本作が主人公の活躍と挫折、そして再起を描く極めて王道、剛速球のヒーロー譚であり――そしてそこでヒーローの、いや人間の持つ真なる美はどこにあるのか、どこから生まれるのかを描く点であります。

 本作の冒頭から王子と行動を共にする孤児・鳶丸。弱肉強食の世に生まれ、他人に心を開くことなく一人荒野に生きてきた彼は、何ら特別な力を持たぬ、単に王子に憧れを抱くだけの普通の少年にすぎません。
 しかし、そんな彼でも、そんな彼だからこそ、王子の心に火を点けることができる。それは一つの希望であり、そして「美」とは何のためにあるのか――そんなことすら、考えさせてくれるのであります。


 …と、作品の熱気に当てられてこちらもついつい熱くなってしまいましたが、このブログを楽しんでいただける方であれば、きっと楽しんでいただけるであろう作品です。

 ただ一つ、普通であればヒロイン(女性)がいるであろう位置に鳶丸がいるため、何やら、こう、非常にあやしげな空気が時々ただようのは、気になるところではありますが…


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