« 「くノ一、百華」(その一) くノ一の非情、時代の無情 | トップページ | 「石燕夜行 骨きりの巻」 絡み合う人間の、妖怪の、神々の想い »

2013.12.01

「くノ一、百華」(その二) 彼女が最後に掴んだもの

 細谷正充編のアンソロジー「くノ一、百華」の紹介その二であります。


「妻は、くノ一」(風野真知雄)
 本年ドラマ化され、続編全三巻も発表された作者の代表作の、いわば原型となった作品であります。

 内容的には、うだつのあがらない男のところに、突然美しい妻がやってくるものの、実は彼女はくノ一で…というシチュエーションのみが共通な本作。
 長編のような大仕掛けな内容ではもちろんありませんが、何故彼女がやって来たのか、そして彼女を守ろうとした男の運命は…一ひねりも二ひねりもある内容は、いかにもユーモアとペーソスと謎で人の人生を切り取ったこの作者らしいものであります。

 本作については、実は以前このブログで単独で取り上げているので詳細は触れませんが、冒頭の一文、そしてヒロインが残した言葉が何とも胸に染みる(あるいは刺さる)作品であります。


「艶説「くノ一」変化」(戸部新十郎)
 既に大半が幻と化している、作者が多岐流太郎と名乗っていた時期の作品。これもこの編者らしい掘り出しものであります。

 石田三成によって、豊臣秀次のもとに送り込まれた甲賀のくノ一・小壺ノほむら。類い希なる美貌を持つ彼女の使命は、秀次を心身ともに弱らせることでありました。
 彼女に閨房術を仕込んだ忍び・小助に守られ、首尾良く秀次の寵愛を受けるようになったほむらですが…

 タイトルを見ればわかるように、くノ一の任務の中でもエロティックな部分を描いた本作。色仕掛けというのは定番ではありますが、しかしそこにはもちろん、己の性を他者に強いられて消費させられるくノ一の哀しみがあります。

 もちろんこうした視点は現代人ならではのものであり、ほむらはただ状況に流されるままなのですが――しかし、結末で彼女を襲う運命は、それだからこそその非人間性に対する静かな怒りが感じられるのです。


「くノ一紅騎兵」(山田風太郎)
 ラストに収録されたのは、やはり忍者といえばこの人、の山田風太郎の作品であります。

 関ヶ原前夜、徳川家康と石田三成の間に挟まれて緊張高まる上杉家に現れた、女と見まごう美貌と、大の男を取りひしぐ技を持つ美少年・大島山十郎。
 彼が引き起こす思わぬ大波乱を描く本作は、せがわまさきにより漫画化されており、このブログでもその際に取り上げております。

 それゆえ、内容については深く触れませんが、山風忍法帖のくノ一ものの中でも、ある意味変化球といえる本作が、本書の掉尾を飾った理由を考えると、これまでに読んだのとは、また変わった味わいが感じられるように思います。

 これまで本書に収録されてきた五作品に登場するくノ一たちに共通するもの――それは、任務/目的のために己を捨て、己の人としての生を擲つ姿であります。
 本作においても、それは同様に見えるかもしれません。しかし、本作の結末において「彼女」が掴んだもの…それは紛うことなき幸せでありましょう。

 その最後の輝きを彩る鮮やかな色彩の描写もさることながら、ここで描かれた幸せのかたちこそ、本書に登場してきたくノ一たちの鎮魂の唄として、この上なく美しく感じられるのであります。


「くノ一、百華」(細谷正充編 集英社文庫) Amazon
くノ一、百華 時代小説アンソロジー (集英社文庫)


関連記事
 「妻は、くノ一」(短編) もう一つの「妻は」
 「山風短 第一幕 くノ一紅騎兵」 忍者として、人として

|

« 「くノ一、百華」(その一) くノ一の非情、時代の無情 | トップページ | 「石燕夜行 骨きりの巻」 絡み合う人間の、妖怪の、神々の想い »

コメント

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)




トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.cocolog-nifty.com/t/trackback/13655/58644853

この記事へのトラックバック一覧です: 「くノ一、百華」(その二) 彼女が最後に掴んだもの:

« 「くノ一、百華」(その一) くノ一の非情、時代の無情 | トップページ | 「石燕夜行 骨きりの巻」 絡み合う人間の、妖怪の、神々の想い »