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2013.12.18

「冬の蝶 修法師百夜まじない帖」 北からの女修法師、付喪神に挑む

 「風の王国」が「この時代小説がすごい! 2014年版」で第3位入賞と、今年は時代小説家として大活躍した平谷美樹がweb上に連載してきた「百夜・百鬼夜行帖」が、「修法師百夜まじない帖」のタイトルで書籍化されました。北からやってきた美少女修法師・百夜の活躍を描く短編連作集であります。

 本作の主人公・百夜は、盲目ながら強い力を持つ修法師(≒祈祷師、まじない師)。光文社文庫から既に二冊刊行されている「ゴミソの鐵次調伏覚書」シリーズの主人公・鐵次の妹弟子に当たる彼女は、鐵次の仕事ぶりを見張るという名目で江戸に出て、彼と同じ通称「おばけ長屋」に修法師の看板を出したのです。
(本シリーズのスタートは、「ゴミソの鐵次調伏覚書」の単行本第一作「萩供養」とほとんど同時ですので、まずはスピンオフと言ってもよいでしょう)

 さて、その鐵次は様々な端布を縫い付けた半纏をまとった異形の快男児でありましたが、その商売敵(?)たる百夜もまた、十分に個性的なキャラクター。
 髪を短く切り揃えた美少女でありながら、彼女が手にする杖は仕込み杖、そして何よりもその口調は、武張った侍言葉――仕込み杖は護身用、そして侍言葉は、江戸弁を喋るために侍の霊を身に憑けているためと、もちろんきちんとした理由はあるのですが、なかなかのキャラ立ちであります。

 そしてその百夜が挑むことになるのは、「冬の蝶」「魔物の目玉」「台所の龍」「化人の剣客」「花の宴」「漆黒の飛礫」「沓脱石」「昨夜の月」の8つの奇怪な事件。
 表題作である「冬の蝶」に登場した薬種問屋・倉田屋で手代を務めるお調子者の青年・佐吉を相棒(?)に、百夜は次々と持ち込まれる怪異の謎を解き、怪異を祓っていくことになります。

 そしてこの怪異のほとんどに共通するのは、実はそれらが付喪神によるものであるということであります。
 年経りた器物に魂が宿り、様々な霊異を成す付喪神は、昨今流行の妖怪時代小説ではお馴染みの存在。その意味では――ほとんど全作が付喪神絡みというのはかなり珍しいとはいえ――本作はよくあるゴーストハンター時代劇に見えるかもしれません。
(ちなみに本作が付喪神を扱うのは、様々な作家が付喪神をモチーフとして時代も舞台も異なる短編小説を執筆する「九十九神曼荼羅」シリーズの一作である点による…というのは舞台裏でのお話)

 しかし、個性溢れる時代小説を描かせれば既に屈指の存在である作者が、凡作を発表するわけがありません。
 一口に付喪神といっても、その変化する元の器物が様々であれば、その変化のきっかけも様々。ややもすればルーチン的になりかねぬスタイルの物語を、本作はこの怪異の正体のバラエティと、先に述べた特異なキャラクターの百夜による謎解きの面白さで、一作一作興趣に富んだものとしているのであります。
(そしてそこには、これまで約十年にわたり実話怪談集を上梓してきた経験を見てしまうのは、決して牽強付会ではありますまい)

 特に、農村で夜ごと牛馬が謎の飛礫に傷つけられていくという「漆黒の飛礫」に登場する怪異の正体は、付喪神怪談としておそらくは空前絶後のものでありましょう。
 一方、百夜のキャラクターと物語の結びつきでいえば、なんと言っても古い屋敷を取り壊そうとした大工たちが、宙から落ちてくる沓脱石の怪異に悩まされる「沓脱石」が白眉。ここで語られる怪異の正体を知り、そこに込められた想いを真に受け止めることができるのは、北から来た女修法師たる百夜だけでありましょう。


 短編ゆえ、もう少し踏み込んだ物語が見たいと感じる部分が皆無ではありません。また、佐吉のキャラクターも、まださまで面白いとは感じられないのも正直なところではあります。
 しかし、本作が、本作ならではの、本作にしかない大きな魅力を持つことは、上に述べたとおりであります。

 本シリーズは既にweb上では28話まで発表されている(そして29,30話の発表も間近の)人気シリーズ。すなわち、これからまだまだ書籍される物語があるいるということであり――我々読者の楽しみもまた、まだまだ続くということであります。


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冬の蝶 修法師百夜まじない帖 (小学館文庫)


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