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2013.12.12

「黄石斎真報」(その二) 混沌の江湖に生きる悪党たち

 中華民国期の地方都市を舞台に、悪党たちが縦横無尽に活躍する秋梨惟喬の最新作「黄石斎真報」の紹介の続きであります。

「死体探求」
 評判の煮込み屋で見つかった人間の内蔵。体の方を探す崇徳たちだが、今度は内臓のない死体が発見される。さらに最近死んだ隠居官僚の遺体が何者かに奪われるのだが…

 ある意味、「黄石斎真報」という物語を象徴するような一編。人肉を出しているという噂を立てられていた煮込み屋(店の名前が「十里亭」、女将の渾名が「顧大嫂」というのが、いかにも水滸伝ファンの作者らしい)で本当に人間の内臓が発見されるという導入部から次々と怪事件が起こるのですが、その背後にいたのは何と…という展開は、一歩間違えればアンフェアの誹りを免れないかもしれません。

 しかし(この趣向の詳細を伏せながら語るのはなかなか難しいのですが)、この一見アンフェアな構造こそが実は本作の最大の特徴であり、一筋縄ではいかない点。
 本作で我々は改めて、ここは正義の味方などという単純明快なものが存在しない世界と悟らされるのであり――そして最終話において、本作の構造は再び重要な意味を持つのです。


「妖怪爆破」
 阿麗の親友の兄のもとに夜な夜な現れ、夜食を強請っていく巨大な手の妖怪。阿麗に頼まれた崇徳たちは、一計を案じて…

 何ともインパクトのあるタイトルですが、内容の通りなのですから仕方がない(?)。
 学問中の男の前に夜な夜な現れる巨大な手の怪というのは有名な話ですが、そんな近代以前の存在に、ある意味近代の象徴ともいえる科学――火薬で立ち向かうというのは、これまで繰り返し本作で繰り返されてきた近代とそれ以前の相剋の表れとも言えるでしょう…

 といいつつ、その裏で黒蝙蝠たちが一計を案じているのはいつも通り。もっとも今回はそれが悪だくみとはいえ、いつもと趣が異なるのが楽しいところではあります。


「刑天乱舞」
 ある屋敷の庭で発見された奇怪な首なし死体。胸には二つの石が埋め込まれ、腹には口のように見える一文字の傷、手元には斧と盾が置かれたその死体は、伝説の妖怪・刑天を思わせるものだった…

 ついに迎えた最終話は、この「黄石斎真報」の総決算とも言える内容であります。
 犠牲者が、どう見ても妖怪・刑天にしか見えぬ姿にされたのはなぜなのか…ホワイダニットとして面白いのはもちろんのこと、その先にあるミステリとしては一種反則的な構造――「死体探求」で触れたものをさらに推し進めたような――は、まさに本作ならではのものでしょう。

 そして思いも寄らぬ人物同士の対決の果てに明かされたのは、物語全体を貫く謎――これまでのエピソードの中で気にはなりつつも、無視しようと思えばできた要素がここで一気に立ち上がるのは、連作ならではの醍醐味と言えましょうか。
 作中で何度か繰り返されるある人物のセリフの真意がわかった時には、思わず嘆息させられた次第です。


 というわけで長々と紹介して参りましたが、その一の冒頭で述べたとおり、ミステリだけでなく、様々な要素が惜しげもなく投入された極めてユニークな連作集である本作。
 もろこしシリーズでは「システム≒秩序」を守るヒーローを描いてきた作者ですが、本作で描かれたのは、その秩序が失われた世界であります(ちなみにもろこしシリーズの最終作ともいえる「風刃水撃」で描かれたのは本作と同時期であります)。

 そんな混沌とした世界で活躍するのは、江湖の申し子ともいうべきしたたかな面々(ちなみに本作、日本人にはいささかわかりにくい「江湖」という概念を巧みに説明しているのに感心させられます)。
 彼らは一人残らず善人とは到底言えませんが、しかしそのバイタリティと度胸は実に魅力的に映ります。

 そして本作は、新たな悪党の誕生を以て結末を迎えたと言えるのですが――彼が、そして仲間たちが今後どのような悪だくみを巡らせるのか――それを見たいと切望するのは、私だけではありますまい。


「黄石斎真報」(秋梨惟喬 講談社) Amazon
黄石斎真報 (文芸第三ピース)

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