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2013.12.22

「書楼弔堂 破暁」(その一) 書楼を訪れる者たちと彼らの一冊

 先日、第一話を取り上げた京極夏彦の新作「書楼弔堂 破暁」の残り五話であります。東京の外れに在る三階建ての燈台のような店構えの古書店・弔堂を舞台に展開される「この一冊」を巡る物語は、様々な人物の様々な過去を飲み込み、展開していくことになります。

 仕事を休職し、ただぶらぶらと郊外に一人住まいする語り手が、ある日足を踏み入れた弔堂。無数の本が並ぶ弔堂は、店主に言わせれば、封じ込められた過去が眠る墓場のようなものであり、店主は、その中から客にとって一生に一冊の本を見つけ出すと語ります。
 そしてその言葉通りに、自分だけの一冊を求めて弔堂を求める者たち。彼らの正体は、そして彼らにとっての一冊とは…


 というスタイルで展開される連作短編集の形を取る本作ですが、第二話以降も、次々と意外な人物が弔堂を訪れ、自分にとっての一冊を――言い換えれば、自分自身の人生の指針を――求めることとなります。

 第二話以降の物語を、未読の方の興を削がない程度に紹介すれば――

 尾崎紅葉の内弟子であり、師の新時代の文学に心酔しつつも、前時代のお化けや怪談に心惹かれる自分に悩む書生の姿を描く「発心」
かつて不思議巡査と呼ばれた男が師事する男――その男の理想の実現に力を貸してくれという勝海舟の依頼を受けて店主が示した一冊「方便」
 語り手が鰻屋で出会った漁師から士族になったという老人が連れる、黒い雰囲気をまとった死んだはずの老人が語る隠された歴史「贖罪」
 名家に生まれながらも児童文学の道を選び、自分は現実から逃避しているのではないかと悩む青年に店主が語る物語の力 「闕如」
 中野の神社に遺された大量の本を引き取ることとなった店主が、先祖伝来の陰陽師としての生業に戸惑う宮司に道を示す「未完」

 …いやはや、核心を伏せつつ要約するのに骨が折れる作品であります。
 しかし、ラスト二話はほとんど客の正体を隠していないとはいえ(そして最終話の客は実在の人物ではないとはいえ)、やはり各話で弔堂を訪れる客の正体は、物語の興趣を生む最大の要素であることは間違いありません。

 そしてそれを解き明かす手がかりとなる、彼らの語る言葉――彼らの重ねてきた過去、そして彼らが抱える現在の、そして将来に向けての悩み――が、同時に彼らにとっての一冊を導き出す鍵ともなっているというのも、実に面白い。一種の時代ミステリとして読んでも、本作は大いに楽しめる作品です。
(さらに第四話の客の正体など、時代伝奇小説としても非常にユニークなアイディアであります)

 そして楽しめるといえば、京極夏彦ファンにとっては、さらに楽しめる要素が、作者の他の作品とのリンクであります。
 明治20年代を舞台とする作者の作品はこれが初めてのはずですが、それよりも少し前の明治初期を舞台とした作品が、「後巷説百物語」。本作の第三話では、この作品のレギュラーであり、かつて山岡百介の力を借りて数々の怪事件を解決したことで「不思議巡査」と呼ばれた矢作剣之進のその後の姿が描かれるのが興味深い。
(さらに作中では由良家の名が…)

 しかし何よりも驚かされるのは――と、長くなるので、ここで次回に続きます。


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書楼弔堂 破暁


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