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2013.12.09

「吉祥の誘惑 採薬使佐平次」 王道を行きすぎた作品?

 吉原で豪商が原因不明の死を遂げた。探索に息詰まった友人の町方同心・省吾に相談された佐平次は、遺体の傍らにあった宝相華の模様の薬包に注目する。時を同じくして、目安箱に強い阿芙蓉の丸薬が投げ込まれた。佐平次が追う二つの謎は、やがて意外な形で結びつく。黒幕を追う佐平次が見たものは…

 八代将軍吉宗が設置した、諸国を巡り薬草などの採取・研究を行う採薬使にして、御庭番というもう一つの顔を持つ男・植村佐平次の活躍を描くシリーズ第3弾であります。
 前作からわずか2ヶ月で登場した本作は、がらりと趣を変え、江戸で頻発する不審死と、密かに流通する阿芙蓉(阿片)の謎に挑むことになります。

 親友の町方同心・長坂省吾から(いつものごとく)相談を受けた佐平次。吉原で突然死を遂げた豪商の傍らに落ちていた薬包の中身を調べた佐平次は、その中に猛毒の芫菁(豆斑猫)が混ぜられていたことに気付きます。
 被害者が精力剤として薬を服用していたと睨んで調べを進めた結果、佐平次と省吾は、同様の突然死が、花街で何件も起きていたことを知ることになります。

 一方、吉宗に呼び出された佐平次は、目安箱に入れられていたという、強い阿芙蓉から作られた丸薬の出所を探るよう、命じられます。丸薬を目安箱に入れた意外な人物と出会った佐平次は、相手から、既に何者かの手により丸薬が大量にばらまかれていることを知らされます。
 しかし時既に遅く、阿芙蓉の魔手は省吾のすぐ近くを襲うことに…


 隣国で戦争の原因となったこともあってか、阿片というのは時代ものではしばしば登場するアイテムであり、江戸で阿片を密売する悪人が現れて…というのも定番の展開ではあります。
 本作はその定番真っ正面を行く作品ではありますが――しかし主人公の設定一つを見てもわかるとおり、ユニークな設定と展開を得意とするシリーズだけに、本作も一ひねりも二ひねりもある内容となっています。

 何よりも面白いのは、佐平次たち採薬使が、阿芙蓉や謎の薬の正体に、「科学的に」迫っていく点でありましょう。
 何しろ毒薬・麻薬を含めて薬といえば、言うまでもなく採薬使の専門分野。その知識をフル活用して丹念に謎を解き明かしていく彼らの姿は、江戸の科学捜査官とでも呼ぶべきでありましょう。

 そしてまた。彼らの活動は採薬使としてのものだけに留まらないのも、言うまでもありません。事件の背後に巨大な陰謀の陰を察知すれば、ここで彼らが見せるのは、御庭番としての顔。
 潜入・探索・破壊――前作にも登場した面々の助けを借り(一部こき使って)、地味な捜査から一転、陰謀を粉砕せんと活劇を繰り広げるという振れ幅の大きさは、本シリーズの大きな魅力でしょう。


 しかし…正直に申し上げれば、大いに楽しませていただきつつも、いささか不満に感じた部分があったのも、また事実であります。

 それは一つには、本作の物語が――上に述べたとおり、本作独自の魅力は備えつつも――あまりに王道を行きすぎて、前二作に比べれば意外性に欠けていたことがあります。
 江戸時代にバイオテロを引き起こした第一作、長崎から江戸まで象を守ってのロードノベルだった第二作…時代小説史上屈指のユニークな作品だった前二作に比べられるのも不幸ですが、やはり今回もと期待してしまうのも人情でしょう。

 そしてもう一つ、これも前二作との比較になってしまいますが、本作では作者独自の視点からの――現代にも通じるような――切り込みが薄かったと感じます。何カ所か、それらしい部分はあるのですが、例えば前作で描かれた権力への批判精神などがあまりに強烈だったゆえに、いささか薄味に感じられた点は否めません。


 本作ならではの魅力があると申し上げつつも、どうにも辛口な評価となってしまい恐縮です。水準以上の快作であることは間違いないのですが…
 しかしながら、シリーズとして今まであれだけのものを見せられると、ついつい欲張りになってしまうのはファンとしては無理のない話。まことに申し訳ありませんが、期待の裏返しと思っていただければ、と思います。


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