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2013.12.08

「書楼弔堂 破暁 探書壱 臨終」 古書を求めて電書を手に

 明治25年、病気療養で休職し、東京の外れで暮らす「私」は、散歩に出た際に、弔堂という奇妙な古本屋に足を踏み入れる。古今東西の膨大な量の書物が眠る弔堂で店主と語らっていた私だが、そこに現れた一人の老人が現れる。死を目前にした老人に、弔堂の店主が差し出した彼だけの一冊とは…

 京極夏彦が明治時代の不思議な古本屋を舞台に描く連作ということで大いに気になっておりました「書楼弔堂」…の第一話であります。

 本作の語り手は、旗本の出ながら今は一種の高等遊民めいた暮らしを送る男。病気療養と称して仕事を休み、家族からも離れて一人暮らす彼が、ある日散歩の途中に、自分の宿から遠くない場所に、一軒の古本屋があることを知る場面から、この連作は始まります。

 その古本屋は、三階建ての燈台のような店構えの、書楼とも言うべき造り。そして軒先には「弔」の一文字が。
 元僧侶だという店主と言葉を交わした語り手は、本とは移ろいゆく過去が封じ込められた呪物であり、そしてそれを読むという行為は、そこに封じられたものを、読む者だけの現世として甦らせる行為だと聞かされるのですが――

 と、この、良い意味で理屈っぽい店主の言葉を聞かされる時点で、我々はもはや京極ワールドの虜。
 私もそれなりに本を愛する人間ですが、なるほど、稀覯書でなく大量流通する本であったとしても、その本を読む時に我々は自分自身のパーソナルな内面世界と――そしてそれはほとんどの場合過去と直結しているわけですが――照らし合わせて読んでいるわけであります。
 そしてそれと強く共鳴する本こそが、心に強く残る本であるというのは、大いに頷けるのですが…

 この連作においては、まさにその個々人の心に強く強く残る、その人物が必要とする一冊を、弔堂の店主が客に引き合わせることになります。
 この第一話においてその一冊に出会うのは、死を目前とした、米次郎と名乗る老人。伝統に固執することを強く否定し、時代の流れに合わせて変わっていくべきと主張する米次郎の言葉から、彼のある想いを読み取った店主が選んだ一冊とは…

 本作の見所が、この「一冊」が何であるか、という点であることは間違いありませんが、それ以上に興味深いのは、そこに至るまでに、客の辿ってきた人生が、抱えた想いが解き明かされていく過程であります。
 実は弔堂を訪れる客は実在の有名人であり、かつ初めは正体が伏せられているのがほとんど。その人生や想いを解き明かしていくというのは、そのままその人物の正体探しにも繋がっていくわけで、この辺りの一種ミステリ味がいい。

 この第一話の客についても、結末に至ってそれまでの描写を振り返ってみれば、なるほど…と思わされる部分だらけで、それがまた何とも悔しくも楽しいのであります。


 さて、今回わざわざ第一話だけを取り上げたのは、実はkindleで本作を読んでいるからなのですが…このkindle版の刊行の仕方がなかなかに面白い。
 実はkindleで最初に刊行されるのは、全六話の本作を一話ずつに分けた分冊版(合冊版は分冊版の後に出るとのこと)。そしてこの第一話は、期間限定で特別価格が設定されております。

 別に期間限定価格でなくとも喜んで買うのですが、しかし一般の読者にとってはその分厚さ(=分量)でちょっと引いてしまうかもしれない京極作品を、こういった電子書籍ならではの形で刊行するというのは、実に面白い試みではありますまいか。
 作者は電子書籍にかなり積極的な印象がありますが(といってもそれは出版社にもよるようですが)、こうした本を扱う物語において、新しい出版形式に合わせたスタイルを模索してみせるというのは、なかなかに象徴的です。

 ちなみにkindleでは、全体の何%まで読んだのかが表示されるのですが、この第一話は60%程度で終了。それでは残りには何が、と思いきや、本作の第二話に加え、「どすこい。」「南極。」「虚言少年」といった作者の他の作品の冒頭部分が体験版として収録されているのであります。
 これも電子書籍ならではの試みと申せましょうか。なかなか面白いものです。


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