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2013.12.21

「寄越人」 終わりの過程を見続けてきた男

 小松エメルが「小説現代」に不定期に掲載している新選組もの短編の第三弾であります。タイトルの「寄越人」とは、隊で切腹したものの埋葬を取り仕切り、見届ける役職。この寄越人と勘定方を兼ねることとなった男・酒井兵庫を通じて、この物語は描かれることとなります。

 特に深い考えも目的もなく、そして剣術はからっきしながら新選組の隊士となった兵庫。そんな彼に算勘の才を見出した総長・山南敬助から勘定方に推挙された彼は、そこで親友もでき、新選組自体が上り調子だったこともあり、彼はそれなりに充実した生活を送ることになります。

 そして勘定方と兼ねて寄越人の役に就いた兵庫ですが、彼の頼越人としての最初の任は、ほかならぬ山南の埋葬の差配。その後も隊士たちの切腹に立ち会うこととなった兵庫は、親友である河合の切腹をも見届けることになるのですが…


 本作を読むまで、私は頼越人という役目があることも、何よりも酒井兵庫という人物の存在も知りませんでした。そんな(全く失礼ながら)忘れられた役目の、忘れられた男の視点から描かれる本作は、それだけに実にユニークな切り口から新選組とそこに集った者を描くこととなります。

 それは「切腹」という側面から見た新選組記とでも言うべきでしょうか。
 新選組という組織を語る上で避けては通れない切腹という制度。腹を切る者にとっては一つの「終わり」である切腹も、それを第三者として見届ける者にとっては一つの「過程」――それで終わることなく、また幾度も繰り返されるものなのであります。

 終わることなく、繰り返される死――それは幕末という時代においては普遍的に見られるものであるかもしれません。
 しかしそれがごく身近に、そしてある意味、敵との斬り合いなどよりよほど理不尽な形で現れたとしたら。そしてそれが、尊敬している人間、親しい人間を襲ったとしたら。

 兵庫は切腹――新選組によって内側にもたらされる死を目撃する寄越人としての任務の中で、新選組そのものの未来の姿、新選組とそこに集った者たちの死の姿を見ていたのではないか…
 そして物語の結末における兵庫の選択は、この「過程」から逃れ、「結末」を見ないですませるためのものではなかったか――というのは、いささか牽強付会に過ぎる見方かもしれませんが。


 思えば作者の新選組ものは、誰かを喪った、あるいは誰かの存在を求める男たちが、その欠落をなんとか埋めようとする中で、新選組という場で見出したものを描いてきたように感じられます。
 次に描かれる男が、新選組で何を見出すのか…それを目にするのが、楽しみなような、恐ろしいような、そんな気持ちであります。


「寄越人」(小松エメル 「小説現代」2013年12月号掲載) Amazon
小説現代 2013年 12月号 [雑誌]


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