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2013.12.26

「大江戸剣聖一心斎 秘術、埋蔵金嗚咽」 剣聖の姿にみるおかしみと安らぎ

 剣聖・中村一心斎の神出鬼没の活躍を描く「大江戸剣聖一心斎」シリーズの第2弾であります。武田の埋蔵金を巡る一心斎の暗躍(?)は留まることを知らず、今回も歴史上の有名人たちを大いに振り回すことになります。

 連作短編のスタイルを取る本シリーズですが、本作に収録されているのは、「郷愁、音無しの剣」「霧隠一心斎」「闇の息」「片手突き」「化け物退治」「身代わり獄門」「あれが武田の埋蔵金」の全七編。
 前作「黄金の鯉」は、本シリーズの旧版である「剣聖一心斎」全十編のうち八編が収録されておりましたが、今回は残る二編と、続編である「暗闇一心斎」から五編が収録されております。

 その「剣聖一心斎」のラストを飾った「霧隠一心斎」は、とある事情から幕府の隠密を斬ったことで一心斎を要注意人物扱いした幕閣が仕掛けた罠の顛末を描くエピソード。
 ラストだけあってそれまでのエピソードに登場したキャラクターが総登場する実に賑やかな展開なのですが、いくらでも派手になりそうなところが、さらりと終わっているのが実に本作らしいところであります。

 前作の感想で、「剣聖一心斎」が途中までしか収録されていないことへの違和感を述べておりますが、今回このような形で読んでみると、さまで違和感を感じないのは、この辺りに依るところでしょうか。

 そして続く「暗闇」編の中心となるのは、天保の三剣豪の一人・大石進を巡る物語であります。
 剣法史に詳しい方であればよくご存じかと思いますが、筑後は柳河藩からやって来たこの大石進は、通常のほぼ二倍の5尺3寸(約160cm)の長竹刀を用いた片手突きで、江戸の剣術道場を総なめにしたという人物。
 千葉周作、男谷精一郎、斎藤弥九郎と、本シリーズにこれまで登場してきた面々を見てもわかる通り、この時代は江戸で剣術が大いに興隆した時代ですが、そこにやってきてほとんど全員に勝利したというのは、恐るべき偉業と言えるでしょう。

 さて、この大石進の「来襲」に対して、一心斎が敢然と立ち上が…るわけはありません。いつも自然体で俗世間には関わらない(わりには始終埋蔵金を追っていますが)一心斎に関わった人々が、不思議と救われていくという展開は、ここでも健在であります。
 この大石を唯一破ったというある剣豪にまつわるエピソードも、なるほどシチュエーション的には剣豪小説的なのですが、しかしそこで描かれるのは、己の往く道に迷う者が、一心斎と触れ合い、振り回された中でいつの間にか答えに辿り着くという、本シリーズならではの物語なのです。


 この辺りは、あるいは普通の「剣豪もの」を求める読者には肩すかしに感じられるのかもしれません。
 しかし剣の道に求められるのが、剣の道から得られるのが強さばかりではないように、本作から得られるものは時代小説としての面白さはもちろんのこと、それ以上に普遍的なおかしみや安らぎであるように感じられます。
 そしてそれこそが、私がこのシリーズを以前から愛する所以であります。

 本シリーズも残すところはあと一冊。「暗闇一心斎」の残りだけでは一冊埋まらないはずですが、さて…期待して待つことといたします。


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