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2013.12.02

「石燕夜行 骨きりの巻」 絡み合う人間の、妖怪の、神々の想い

 色を感じることはできないが、この世ならぬものを見ることができる絵師・鳥山石燕は、塗楽という奇妙な老人の訪問を受ける。夜毎発見される、骨だけとされた人間の死体。骨きりと呼ばれるその怪異を封じるため、石燕の力が必要だというのだ。依頼を引き受けた石燕だが、彼と塗楽にはある因縁が…

 一昨年、戦国時代を舞台とした伝奇ホラー「人魚呪」で遠野物語100周年文学賞を受賞した神護かずみの新作は、文庫書き下ろしスタイルの連作妖怪時代小説。今やプチブームとも言える妖怪時代小説ですが、しかし本作は、いかにもこの作者らしい味付けが施された作品であります。

 本作の主人公にしてタイトルロールである鳥山石燕は、江戸時代中頃に実在した、妖怪画を得意とした絵師であります。
 彼の手になる「画図百鬼夜行」をはじめとする妖怪画集は、今なお好事家を楽しませ、水木しげるや京極夏彦にも多大な影響を与えているほど…というのは、妖怪好きの方には言うまでもないことでしょう。
 本作は、そんなある意味有名人を、しかし独特の味付けで描き出します。

 本作に登場する石燕は、京は鳥辺山で、ある伝説そのままの不思議な生を受けた青年。生まれつき色彩を感じることができぬという、絵師として一見致命的な体質を持ちながらも、墨の濃淡によって玄妙な絵を生み出す彼には、それ以上に驚くべき能力がありました。
 彼の瞳に不思議な灰色の影が浮かぶ時、彼の目は、妖怪や幽霊など、この世のものならぬものたちを視るのであります。

 本作は、その目で、筆で様々な奇瑞を起こす石燕が、不思議な因縁を持つ老妖怪・塗楽――妖怪の頭領といえばその正体はおわかりでしょう――をはじめとして、ぬりかべや一反木綿などといった妖怪たちとともに、人の世を騒がす怪事を解決するために奔走する姿が描かれることとなります。


 …と、これだけではよくある妖怪退治ものに見えるかもしれません。その筆により奇瑞を起こす絵師というのも、本作が初めてのキャラクターではありません。
 しかし、本作が既存の作品と異なるのは、怪事の陰に存在し、その怪事を引き起こす人間の、妖怪の、神々の想いを、丹念に描き出し、絡み合うその想いが絡み合い、ねじれあっていく様を描き出していく点にあると感じます。

 本作に収録された四つのエピソード――「骨きり」「何処何処」「蛇座頭」「紫陽花幻想」で描かれるのは、一種自然現象のように人に襲いかかる怪異だけではなく、それぞれの想いを抱いた、あるいは想いが生み出す存在たち。
 たとえその存在が、能力がどれほど異常で、異界のものと見えたとしても、彼らの多くは単なる怪物ではなく、我々と同様にものを想い、感じる――しかし、普段は互いに交わることない世界に属する――隣人として描かれるのです。

 そしてその想いは、単に誰か一人のものだけではなく、一つの事件の陰で複数の想いが絡み合い、さらに事態を複雑化させていく――すなわち、因縁を強くさせていくものでもあります。
 さらにいえば、人が彼らと同じような想いを抱くということは、人もまた、何かのきっかけがあれば、向こう側へと踏み込んでしまうという意味でもありましょう。

 そんな入り乱れ絡み合った、しかし常人には見えない想いを見出し、描き出すことにより、その想いを解きほぐしていく――石燕はそんな存在なのであり、そしてその過程こそが本作の魅力でありましょう。
 その一方で、そんな石燕のアプローチとは全く正反対の、全てを一刀で断ち切らんとする幕府の退魔剣士ともいうべき剣呑な男、御影・椿鏡花というキャラクターが用意されているのも、巧みな趣向と言うべきでしょう。
(ちなみに空海を祀るお堂を御影堂と言いますが、作中でもほのめかされているように、空海と縁ある人物の様子で、彼の存在もまた気になるところです)


 そのスタイルゆえに、いささか重く感じられる部分は、確かに否めません。
 ライトでユーモラスな作品が主流となっている妖怪時代小説の中では異色の作品なのかもしれませんが――しかし、その重さは、中身に込められたものの重みでもあります。

 本シリーズは、第2弾、第3弾の刊行も決定しているとのこと。この先も、本シリーズならではの、本シリーズでなければ読めない作品を味わわせていただけそうです。


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