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2013.12.20

「百万石の留守居役 二 思惑」 絡み合う真意のダイナミズム

 加賀藩主・前田綱紀の五代将軍就任を巡り二分された藩論。賛成派の重臣・前田直作を警護して江戸に向かう瀬能数馬だが、その前に反対派が待ち受ける。一方、江戸では大老・酒井忠勝が綱紀に決断を迫っていた。それぞれの思惑が複雑に絡み合う中、数馬の運命は、そして加賀藩の決断は…

 「この時代小説がすごい! 2014年版」で「奥右筆秘帳」が第1位に輝き、絶好調のままスタートした新シリーズ「百万石の留守居役」の第2巻であります。
 四代将軍家綱の死を目前として、時の最高権力者たる大老・酒井忠勝が藩主・前田綱紀を五代将軍に擁立せんとしたことから始まった加賀藩の混乱。その行方と、忠勝・家綱・綱紀らの真意が、いよいよ描かれることとなります。

 藩の重臣の中で唯一、綱紀の将軍就任に賛成したことから、周囲から奸物として命を狙われることとなった前田直作の命を助けたことが縁になってか、江戸に召喚される直作の警護役となった主人公・数馬。加賀から江戸までの旅の間に待ち受けるのは、直作を討とうとする「忠臣」たちの刃であります。

 剣は香取神道流の達人、頭の切れも相当のものな数馬ですが、この戦いは一対一の決闘などではありません。
 限られた人数である自分たちで、幾人いるか、そしてどこで襲いかかってくるかもわからぬ相手を如何に迎え撃つか…時に正攻法で、時に奇策で難関を突破していく数馬の姿が、本作の魅力の一つであります。
(さらに、義父となる家老・本多政長の家臣が、お目付役兼アドバイザー兼採点者として同行しているのがまたお話を面白くするのです)

 そしてそれと並行して描かれるのは、冒頭に述べたとおり、そして本作の副題となっているとおり、交錯する様々な人間の「思惑」。
 徳川の血を引いているとはいえ、外様の綱紀を奉戴しようとする忠勝。忠勝ら幕閣の言葉に従うばかりの家綱。周囲が皆反対する中、ただ一人綱紀の将軍就任に賛成する直作。そして渦中の綱紀――
 誰もが秘め隠した表向きとは異なる想いが、時に絡み合い、時にぶつかり合う、そのダイナミズムがたまらなく面白い。

 深謀遠慮というだけでは収まらない、権力者の――人々の生活を背負う者たちのそれぞれの思惑は、その周囲で右往左往する者たちのそれが浅薄なものとしか見えぬ、一種凄みすら感じさせるもの。
 この辺りの描写は、デビュー以来ほぼ一貫して「権力」の在り方を描いてきた作者ならではであり、そしてそれは外様大名家を題材とした本シリーズにおいても変わらないのであります。


 そして数馬もまた、権力者たちの思惑に振り回された形ではあるのですが――しかし、彼に在って他の者にないのは、己の信念に恥じることなくそれを貫こうとする真っ直ぐな姿勢でありましょう。
 それはもちろん、彼の若さゆえと言えるかもしれませんが、しかしだからこそ、政の澱みに染まらない彼の凜乎たる姿は、この物語において、一つの希望とすら感じられるのであります。

 実は本作までの二作は大いなるプロローグ、「百万石の留守居役」誕生編とも言うべき内容。ここに生まれた若き留守居役が、これから如何に政の世界を切り開いていくのか、期待するなという方が無理でしょう。


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