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2013.12.03

「神剣の守護者」 断ち切られた正成の呪縛

 時は戦国、北畠具教に仕える楠正成の末裔・正具は、伊勢に侵攻してくる織田信長の軍を視察するために訪れた津島で、猿顔の奇妙な男・中村藤吉郎と出会う。先祖代々ある物を守り、それをふさわしい者に託すという使命を背負った正具は、信長がふさわしい相手か、藤吉郎を通じて近づくのだが…

 最近、若手作家の新鮮な作品を意欲的に刊行している学研から刊行された本作は、戦国時代を舞台とした、やはりユニークな主人公設定が魅力の作品であります。

 その主人公は、楠木正具――かの英雄にして悪党・楠木正成の子孫であります。
 百数十年前に故あって伊勢に落ち延び、同じ南朝方であった縁で北畠家に身を寄せた正具は、先代の北畠家の当主・具教から剣を学び、将来を期待されながら、今は暢気に里の人々とともに暮らす毎日を送る男。

 しかし尾張の織田家と美濃の斎藤家の争いを横目に見つつも平穏を保っていた伊勢にも、斎藤家が滅んだことにより、織田家の軍勢が迫る状況に。
 そんな中、正具は伊勢の安寧以上に、ある使命のために動くこととなります。

 今の主家に当たる北畠家、いや天下の誰も知らぬ楠木家の使命。彼らが伊勢に落ち延びるきっかけとなったもの、そして代々守ってきたものの正体は、本作のタイトルを見れば明らかでしょう。
 彼らの使命は、その守ってきたものを、天下を統べるに相応しい人物――日本を平和にし、万民に幸せを与える者に託すことにありました。そして正具は、かつて楠木正成が仕えた後醍醐天皇と同じく、第六天魔王を称する信長こそがそれではないかと考え、彼に接近しようとするのですが…


 信長が伊勢の北畠家とどのように相対したか、そしてその結果何が起こったか――戦国好きの方であれば言うまでもないことでしょう。
 しかし本作は、その史実に至るまでに、歴史の陰にあったかもしれない物語…というよりあってくれたら頗る痛快な物語を、史実の隙間を縫いながら描き出すのです。

 そしてその中心にいるのが、快男児・楠木正具であるのは言うまでもありません。
 正具の先祖たる楠木正成――さらに言えば、その末期に誓ったという「七生報国」という言葉――は、戦前の扱われ方もあり、いささか敬遠気味になる存在なのですが――本作における正具の存在は、そうした想いを軽々と乗り越えていくのです。

 正具が受け継ぐ「七生報国」の想い。しかしここで言う「国」は、支配層の側から見たそれを意味しません。彼の言う「国」は、そこに暮らす人々から見たそれであり――もちろんそれは極めて現代的な発想ではあるものの、しかしその想いは、「悪党」のそれに相応しいものと感じられるのであります。

 そんな彼が決戦の場で信長を向こうに回して切る啖呵は、既存の楠木正成像からの呪縛を断ち切る――そしてそれは、正具自身と我々と、物語の内外それぞれに対するものなのですが――痛快極まりない宣言であるのです。


 …ただし、本作を読んでいてどうにもすっきりしないのは、そんな彼が一族の使命を託すに足ると認めた人間が、晩年にどうしようもない愚行の数々をやらかしていることであります。
 もちろん人は心変わりをするものではあり、老いては麒麟も…の喩えもありますが、それはさておき。

 このあたりは、作中でその人物の描写をもう少し掘り下げることで、だいぶ説得力あるものになったのではないか、というのは偽らざる印象です。


 だとすれば――本作の後に、正具が、そしてその人物がどのような戦いを繰り広げることとなったのか、それを描く物語を見てみたい。何しろ七度生まれ変わる楠木、たった一度の冒険で枯れてしまうはずはないのですから…


「神剣の守護者」(智本光隆 学研パブリッシング) Amazon
神剣の守護者

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