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2013.12.05

「小説 雨柳堂夢咄 はかなき願いは時間をこえて」 普段通りの、そして意外な趣向の夢咄

 店の入り口に大きな柳の木がある骨董屋・雨柳堂。人ならざるものを視る力を持つ店主の孫・蓮を狂言回しとして、骨董品に込められた人々の想いを描く波津彬子の名作「雨柳堂夢咄」の小説版が刊行されました。小説版の作者は時海結以――古典ベースの作品を得意とする作者だけに適任と言えましょう。

 これまでもこのブログで取り上げてきたように、私も大好きな作品である「雨柳堂夢咄」。その初の小説版である本作は、5つのエピソードから成るのですが…最初に受けたのは、良い意味で「いつもどおり」という印象であります。
 ある骨董品を中心に、ゲストキャラクターが様々な事件・出来事に出会い、そこから生じる様々な人の想いの結末を、蓮くんが見届ける…そうした原作の基本フォーマットに沿って、本作は進んでいきます。

 原作の雰囲気から大きく異なるようなイベント――たとえば派手なアクションシーンやら蓮くんのライバル登場など――があるわけでもありませんが、むしろそれが本作を小説化する上で正しいというのは、ファンであればよくご存じでしょう。

 ただし、原作ファンであるほど、「ん?」と感じる部分はあるかもしれません。それは簡単に言ってしまえば、登場人物の語りがかなり多い点であります。
 これは一つには、本作に収められたエピソードが、いずれもそれぞれ異なる語り手による一人称で描かれていることによるものかと思われます。

 もちろん、原作でも一人称視点のエピソードは少なくありませんが、その性質上、描写的には俯瞰的にならざるを得ない漫画に対して、小説は完全に主観で描くことが可能となります(それを一種のトリックに使ったエピソードもあります。原作ファンであればすぐにわかってしまうものではありますが…)。
 しかしそれ故に全ての描写は語り手の口を通じて語られることとなり、そこが厳しく言ってしまえば贅言を費やしているように感じられる部分はあるかもしれません。そしてこの点は、漫画と小説の表現方法の違いにそのまま繋がってくるものではありましょう。

 それ故、漫画と全く同じ感覚を期待すると――内容的に普段通りであるがゆえになおさら――気になってしまう部分はあるかもしれませんが、そこはむしろメディアの違いとして楽しんで良いのではないかな、と私などは感じてしまいます。

 何よりも本作のユニークな点は、全体を通じて一つの趣向・仕掛けが――作品のムードを壊すことなく――用意されている点であります。
 これをズバリと言ってしまうことができないのがなんとも歯がゆいのですが、それが明かされた時は、まさか本作でこうくるかと、大いに驚き、かつ嬉しくなってしまった次第です(ここで作者のデビューしたレーベルを思い出すのは、いささか考えすぎかもしれませんが)。

 この仕掛けが鮮やかに昇華するラストは、美しい物語、いい話の連続である本作においても、間違いなく最も美しい瞬間でありましょう。
 まさしく「はかなき願いは時間をこえて」という副題に、そしてもう一つの「雨柳堂」の結末としてふさわしいものであったかと思います。


「小説 雨柳堂夢咄 はかなき願いは時間をこえて」(時海結以&波津彬子 朝日新聞出版) Amazon
小説 雨柳堂夢咄 ~はかなき願いは時間をこえて~


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