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2014.01.05

「読楽」2014年1月号 「時代小説ワンダー2014」(その2)

 徳間書店の「読楽」1月号の特集「時代小説ワンダー2014」に掲載された四つの短編の紹介の続きであります。いずれも私好みの作品ですが、今回紹介する武内涼、越水利江子の両作品も実にユニークかつ作者の持ち味が出ていると感じます。

「伊藤若冲、妖草師に遭う」(武内涼)
 妖草師なる聞き慣れない言葉を冠した本作は、いかにも作者らしい植物時代伝奇小説(?)です。

 妖草とは、この世に現れた常世――異界の植物、そして妖草師とは、その妖草を狩る、いや狩る者。そして本作の主人公は花道を継ぐ公家の家に生まれながらも、故あって外に出された青年・庭田重奈雄と、同じく花道の家に生まれ、天眼通の力を持つ京娘・池坊椿であります。

 今回重奈雄と椿が挑むことになるのは、丹波の山村に現れた奇怪なオモダカ――周囲の草を枯らし、そしてそれを刈らんと近づく者の身を焼け爛らせるというまさに妖草。この妖草を近づかずにして、そして周囲にこれ以上の被害を与えることなくいかに滅ぼすか?
 相手が動かぬ草だとしても油断はできない、そんな人と草の戦いの面白さは、デビュー作から一貫して人と自然の関わり、自然の中の人を描いてきた作者ならではでしょう。

 そしてもう一つ本作の趣向は、タイトルにあるとおり、伊藤若冲の登場でしょう。言うまでもなく若冲は綿密な写生を基に、数々の動植物画の名作を残した画家。その若冲が、いかに妖草と、妖草師と関わり合うことになるのか…詳細は触れませんが、それは人と植物の、自然の関係性の一つの象徴とも言うべきものと言えるかもしれません(もっとも、タイトルから受ける印象ほど若冲が目立たないのは少々残念ですが)

 それにしてもこの重奈雄と椿のコンビ、この短編一つで終わるのはあまりにも勿体ない…と思いきや、二月に文庫でお目見えする模様。これは非常に楽しみです。


「うばかわ姫」(越水利江子)
 特集のラストを飾るのは、これまで児童文学で活躍してきた作者の、時代ファンタジー。児童文学といっても「忍剣花百姫伝」のように大人が読んでも、いや大人だからこそわかる面白さのある作品を発表してきた作者だけに、本作も実に個性的かつ魅力的な作品となっております。

 舞台となるのは戦国乱世も収まりつつある頃の琵琶湖。雛にも希なる美貌を持った娘・野朱は、東国の武家の側室となるための旅の途中、野伏せりに襲われて供を皆殺され、自分も追われる身になってしまいます。
 そんな彼女の前に現れた老婆は、野伏せりから彼女を逃すため、姥皮なるものを貸すのですが――ある程度予想はつくかと思いますが、その代償として彼女から奪われたものは若さと美貌。老婆そっくりの姿となってしまった野朱の運命は…

 と、ある種寓意的なものを感じさせる本作ですが、しかしお説教的な内容となるのではなく、また逆に生々しい展開となるわけでもなく、その間をバランスよくくぐり抜け、一種の極限状態下でもなおも生きんとする人間の姿を描いた物語として成立させているのは、これは作者の筆の力によるのは間違いありますまい。

 そしてまた実に魅力的なのは、彼女の前に現れるある怪異――かつて琵琶湖畔に存在した城の主とその従者の存在であります。
 時に彼女を導き、時に翻弄する二人…彼らの存在こそが怪異の源となるという設定は実にユニークであり、本作以降も物語を広げていくことのできる趣向ではないかと感じたところであります。


 というわけで「時代小説ワンダー2014」、どの作品もまさにワンダーに満ちた作品でありましたが、同時にこの先へ先へと物語を繋げていくことができる内容となっていたのが実に興味深いところであります。
 ぜひ今回掲載された作品たちの続編を、そしてさらなる「時代小説ワンダー」を見せていただきたいものです。


「読楽」2014年1月号(徳間書店)

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