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2014.01.18

「崑崙遊撃隊」(その一) いまと過去の先の秘境

 1933年、シナ浪人の集団から大金を横領し、親友の愛人を殺したと噂される男・藤村は、上海で謎の男・森田と出会う。藤村がかつて目指した伝説の地・崑崙。森田は崑崙への案内人として、藤村を雇おうというのだ。かくて、二人を中心とした奇妙な探検隊は、崑崙を目指してゴビ砂漠へ旅立つが…

 SF作家、ミステリ作家、時代小説作家…様々な顔を持つ山田正紀には、冒険小説家という顔があるといっても、誰も反対いたしますまい。そして冒険小説といってもさらに様々なサブジャンルがありますが、本作はその中でも――ほとんど滅亡寸前の――秘境冒険小説に分類される作品であります。

 中国大陸を列強が、日本が食い荒らしていた1933年を舞台にした本作で描かれる「秘境」とは、中国神話に残る伝説の地・崑崙。西王母をはじめとする神仙が住まい、黄河の源であると言われる崑崙を目指し、男たちが旅立つこととなります。
 その探検隊の顔ぶれがまた面白い。何者なのかまったく得体の知れない中年、女たちを憎悪し自動車を愛する美少年、引退してアメリカで暮らすことを夢見る殺し屋、粗暴だが己のサラブレッドをこよなく愛する馬賊と、これだけでもユニークですが、主人公は失意のどん底に暮らし、ただ崑崙で死ぬことだけを夢見る虚無的な男なのですから――

 本作は探検隊が崑崙に向けた冒険を繰り広げる「いま」と、主人公・藤村を虚無感に苛ませることとなった「過去」を、交互に描いていくこととなります。

 藤村をはじめ、それぞれが全く異なる理由で求める崑崙。しかしゴビ砂漠を越えた遙か先に眠る崑崙は、絶滅したはずの剣歯虎などまだ序の口というべき想像を絶するものたちが棲む、まさに秘境。
 恐るべき敵たちとの戦いと、意外な裏切りを切り抜け、藤村たちがようやく辿り着いた崑崙の、その秘密とは――


 と、実は私は本作をおよそ20年ぶりに読んだのですが、それだけ間をおいても――他のディテールは忘れていても――鮮烈に印象に残っていたのは、この崑崙の秘密。
 今読んでみてもその斬新さ、新鮮さには驚くほかないその秘密は、まさに作者の面目躍如と言うべきでありましょう。正直に申し上げて、少なくとも秘境冒険ものにおいて、これに匹敵するようなアイディアはほとんどないのではありますまいか。

 今から80年前とはいえ、世界にほとんど秘境というものが――少なくとも冒険行を繰り広げるに足る――ものがほとんど失われた中で、いかにして秘境を設定するか。それも、リアリティと奇想という、相反する要素を備えた上で…
 その最上の回答が、本作にはあります。


 しかし、今回再読してより深く心に突き刺さったのは、この探検行を通じて描かれる、藤村という男の、魂の遍歴であります。

 それは…長くなりますので、次回に続きます。


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コメント

この作品は漫画版も出版されていて、「戦国自衛隊」の漫画版を描かれた田辺 節雄さんが劇画化しています。ただ、出来の方は最後の方を大幅に短縮したので原作の冒険活劇要素が損なわれているのが欠点でした。「戦国自衛隊」のように大幅に加筆してもらっていれば・・・と残念に思います。

投稿: ジャラル | 2014.01.19 13:39

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