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2014.01.28

「千里伝 乾坤の児」 そして人は成長し、旅は続く

 武神の賽の力により、天地は作り変えられた。元の世界から新たな世界に辿り着いた千里とバソンだが、故郷を襲った悲劇にバソンは戦う力を失い、千里はただ一人世界を彷徨う。人々の感情を奪い、魂を喰らう皇帝になす術はあるのか。だが、世界を甦らそうと戦うのは千里一人ではなかった…!

 唐代の中国を舞台に展開されてきた希有壮大なファンタジー「千里伝」も、この第4巻でついに完結であります。

 武宮最強を決める武神大賽において、かつて冒険を共にした絶海と激突することとなった千里とバソン。しかし強さへの渇望に暴走した絶海の振るう因果の力の前に敗北し、一連の事件の陰で糸を引いていた謎の道士・呂用之により、天地は全て作り変えられることに――

 そして生まれたのは、唐が建国されることなく、二百数十年を経てなおも生き続ける隋の煬帝が君臨する世界。
 呂用之と煬帝に逆らった武宮の仙人たちはいずこかへ消され、ただ二人、趙帰真の最後の力で新たな天地に送り出された千里とバソンですが、すぐに恐るべき悲劇を目の当たりにすることになります。

 絶望から戦う力を失ったバソンは捕らえられ、辛くも逃れた千里は、ただ一人、呂用之と煬帝を倒し、絶海とバソンを救い、そしてこの天地を元に戻すという、あまりにも大きな目的のために歩み出すことになります。


 これまで時空を股にかけ、壮大という言葉も色褪せるような冒険を繰り広げてきた千里。しかし、今回ほど重く辛く、厳しい冒険はないでしょう。
 何しろ舞台はすでに作り変えられた世界。そこを支配するのは、人々が感情を持つことすら許さぬ絶対的な力を持つ敵、因果を――すなわち、行動の結果を――自由に操り、かつての強敵である共工の子らすら一蹴する怪物なのですから。

 絶海は敵の下で殺戮に酔いしれ、バソンはいずこかへ囚われ、武宮の仙人たちもある者は消え、ある者は敵の軍門に下り、ようやく出会ったかつての仲間(と同じ名を持つ者たち)は苦闘の末に…いや、書いていて気が滅入るほどの絶望ぶりであります。


 しかし、千里の戦いは終わりません。そして、彼は決して孤独のままではないのです。
 物語が進むにつれて登場するのは、もう二度と会えまいと思っていた者も含めて、これまで彼の冒険を彩ってきた様々な人々。これはもう大長編クライマックスの醍醐味と言うべきものであり、彼の冒険の軌跡をそのまま示すものであります。

 そしてそれはまた、千里の成長の過程でもあります。
 初登場の際には本当にイヤな奴だったがそのまま成長しなければ、あるいは逆に彼が最初から完成された人間であれば、出会ったとしても決して今のような関係にはならなかったであろう人々――彼らとの繋がりは、決して完全ではなく、完全になれるはずもないのだけれども、しかしだからこそよりよき存在となるために努力する千里の、人間の善き部分を示すものでもあるのです。

 そしてそれこそが西王母が五嶽真形図の器として人間を、それも三人の少年を選んだ理由なのでしょう。


 終盤の展開、特に結末はあまりにも理想的に過ぎるかもしれません。大暴走したあの人物のその後の扱いも軽いようにも思えます。 しかしそれでもそれが全く瑕疵に感じられないのは、本作に、本シリーズに、この大いなる人間肯定、人間に対する優しい眼差しが通底しているからにほかなりません。

 そしてそれが、作者の作品全体にも通底するものであることは、ファンであればきっとご存じでしょう。
 それは、私がこれまでも、これからも作者の作品を愛読する所以でもあります。


「千里伝 乾坤の児」(仁木英之 講談社) Amazon
千里伝 乾坤の児


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