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2014.01.19

「崑崙遊撃隊」(その二) 秘境を求める心、秘境を守る戦い

 山田正紀の「崑崙遊撃隊」の続きであります。今回再読してより深く私の心に突き刺さった、本作の主人公・藤村の魂の遍歴とは――

 大金を横領した上に親友の愛人・李夢蘭を殺し(さらには彼女と関係を持ち)、今は親友から執拗に命を狙われ、ただ今は夢蘭から聞かされた崑崙で死ぬことだけを夢見る藤村。
 彼の人物造形は、この作品が描かれた作者のデビューほぼ直後の作品の主人公に程度の差はあれどしばしば登場する、ひどく虚無的な、絶望を通り越した末に無感動の域にまで達してしまった男として描かれます。

 しかし彼の魂に眠るのは――他の山田主人公同様に――それほどの虚無に塗りつぶされようとも、しかしそれでも消せない熱い想い、熾火のように燃え続ける想い。
 本作は、一度は炎が消えかけた男の魂が、冒険行の末にその輝きを取り戻し、静かに、しかし赤々と燃えあがるさまを描く物語なのであります。

 …そんな本作は、秘境冒険小説と言い条、他の同ジャンルの作品とは大きく異なる性質を持ちます。
 乱暴に言ってしまえば、秘境冒険小説が秘境を「征服」する物語であるとすれば、本作は、秘境をその征服から「守る」物語。そして本作のそんな性質は、今述べた藤村のキャラクターと、彼の心の動きと強く結びついているのです。

 物語が進んでいくにつれて明らかになっていく藤村の過去の罪。それはいささか詩的な表現をすれば、時代の巨大なうねりに翻弄され、どうしようもなく押し流されていった末に彼を襲った理不尽な運命であります。
 そして冒険の末に彼が知ったのは、崑崙を、そこに住まう者を襲わんとする、巨大な時代のうねりが生み出した暴力の存在であり――彼が己を苦しめたものに組みするはずは、もちろんありません。

 本作の終盤で描かれるのは、藤村が、かつて己を苦しめたものと同根のものに戦いを挑み、かつての自分自身を救おうとする姿。
 その姿は、これも作者の作品の多くに共通する、そして私が作者の作品をその奇想以上に愛してやまぬゆえんである、ちっぽけな、しかし一個の魂を持った存在である、一人の人間の尊厳を守るための戦いの姿なのです。
(彼が守ろうとしたものの力を知れば、これはいささか滑稽ではあるかもしれませんが、しかしその正体を考えれば、その想いには大いに価値あるものと感じます)

 そしてこの点にこそ、本作がこの時代を、国家という巨大な存在により、それとそれに群がる人々の暴力により、個々人の尊厳が踏みにじられた時代を舞台にした理由であるとも、私は感じます。


 手に汗握る冒険小説であり、奇想天外なSF小説であると同時に――本作はかつてあったどこかではなく、いまこの時も存在しそして理不尽な力に脅かされている、守られるべきもの存在を描きだしているのであります。
 その意味で本作はまったく古びることがない作品であると、今更ながらに感じた次第です。


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