「本所深川ふしぎ草紙」(その一) 七不思議の中の謎と秘密
今頃のご紹介で大変恐縮ですが、十数年前にNHKにて「茂七の事件簿 ふしぎ草紙」のタイトルで高橋英樹が主演でドラマ化され、つい数年前にも「回向院の茂七 ふしぎ江戸暦」のタイトルで的場健が漫画化した、その原作であります。原作者は宮部みゆき、言わずとしれた時代ミステリの名手であります。
タイトルのとおり、本所深川を舞台とした本書がモチーフとするのは、江戸時代にその近辺で語られた本所七不思議――すなわち、
片葉の芦
送り提灯
置いてけ堀
落葉なしの椎
馬鹿囃子
足洗い屋敷
消えずの行灯
の七つ。
本書はこの七不思議を一つ一つ題材とした物語、七編の短編から成る短編集であり、それぞれ独立した物語に共通する一種狂言回しめいたキャラクターが、茂七親分なのです。
作品の興を削いでしまうかもしれませんが、本書に収められた作品は、その題材とは裏腹に、というべきか、ジャンルでいえばホラーというよりミステリ。したがって作中で起きる事件はいずれも合理的に解決されるものではあります
しかし、先に述べたように、それはいずれも本所七不思議の一つ一つと対応したもの。
それぞれをモチーフにしつつ、解かれるべき謎/秘密を設定し、物語を成立させてみせるのは、さすがにこの作者ならではと言えるでしょう。
特に個人的に印象に残ったのは、「落葉なしの椎」――ある殺人事件が起きた後、その事件の犯人の跡を隠してしまった落ち葉を掃き清めることに取り憑かれたかのような少女の姿を描く物語であります。
本作で描かれるのは、もちろん殺人事件の謎解きではありますが――その意味では本書の中で一番表面的にもミステリ的な作品かもしれません――しかし同時に描かれるのは落ち葉を掃き清める少女の心中なのです。
いわゆるホワイダニットとしてそれが解き明かされたその先にあるのは、ある哀しくも暖かい真実。事件らしい事件の陰に、日常の謎的それが配置されているという構造も心憎いのですが、それが浮き彫りにする人の想いには、ただ打たれるばかりです。
そしてこれは余談ですが、本書から感じたのは、ミステリといわゆる人情ものの相性の良さ。
何となく水と油のように感じられる両者ですが、しかしミステリがある事件の謎を解くために、犯人をはじめとする関係者たちがなぜそのように行動したか、その心の動きを解き明かすことを考えれば、人情、すなわち人の心の動きを主題とする物語と重なる部分が大きいのではありますまいか。
もちろんそれはあくまでもミステリの中にそうし部分もある、ということを意味するに留まりますが…
そしてこれは一話挙げれば…と、ここから先は長くなるので次回に続きます。
「本所深川ふしぎ草紙」(宮部みゆき 新潮文庫) Amazon

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