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2014.01.30

「本所深川ふしぎ草紙」(その二) 我々のすぐ近くの薄暗い闇

 本所七不思議を題材とした宮部みゆきの連作短編集「本所深川ふしぎ草紙」紹介の続きであります。

 さて、もう一話挙げれば、「消えずの行灯」は、また別の方向から人の想いの虚実を浮かび上がらせる物語。
 何やら胡散臭い男から、おかしな仕事を――事故で死んだ大商人の娘の身代わりとなって、気の触れたその妻の世話をするという仕事を――持ちかけられた天涯孤独の女が、その仕事を受けた中で見たものは…

 何よりも本作の主人公の、ある意味覚悟を決めた、貧しくも賢く自立した女性である一方で、スレきったわけでもないキャラクターが実に面白いのですが、そんな彼女だからこそ気付いてしまった真相があまりにも重く、こちらの胸に突き刺さります。

 いわば本作は、「落葉なしの椎」とは違い、明確な事件性はないものの、別の角度から人の心の中の謎を浮き彫りにした物語。
 これもまた、本書ならではの物語であると申せましょう。


 しかし…ここで改めて考えてみれば、本書のモチーフたる本所七不思議というのは――そしてたぶんほかの七不思議も――芦だったり提灯だったりお堀だったり、それが怒るという場所やもの自体は、格別不思議なものでも珍しいものでもありません。

 もっとも、町中に普通にあるものでなければ、そこで暮らす人々が話の種にもできないわけですからそれは当然かもしれませんが、しかしそこにわずかな不思議が加わっただけで、それは途端に薄暗い闇の中に包まれ、近いけれどもどこか遠くの、あちら側のものになってしまうのです。

 そしてそれは、本作において描かれる七不思議も同じであります。
 本作で描かれる七不思議は、いずれも本来の七不思議をモチーフにしつつも、そこになにものかが託され、象徴し、新たな物語を生み出しているのであります。

 それが何を象徴しているかは、もちろん物語によって異なります。しかし、あえて共通点を見つけるとすれば、それは人の心とその動き、働き…それも、できれば隠しておきたい、見ないですませたい類のものでありましょう。

 どこにでもあるような、誰の中にもある心の動き。そこにほんのわずか、何かの拍子で歪みが生じた時…そこに生まれるのは薄暗い闇の向こうの不思議であります。
 決して超自然的なものではなく、しかし余人には窺うこともできない、それでいて我々 のすぐ隣にあるもの――あくまでも日常の代表者である茂七も立ち入ることができない不思議が、そこにはあります。


 不思議であって不思議でなく、不思議でなくて不思議である――我々のごく近くにあるそれ。
 本書はそんな七不思議の在り方までも――すなわち、謎の陰の人の心の在り方までも――踏み込んでみせた、いかにも作者らしい作品集なのであります。


「本所深川ふしぎ草紙」(宮部みゆき 新潮文庫) Amazon
本所深川ふしぎ草紙 (新潮文庫)

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