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2014.01.15

「グレイトフルデッド」 霊幻道士、混沌の上海を駆ける

 清朝末期の上海の娼館・壺中天の娼婦・コリンには、もう一つの顔があった。それは上海の闇で蠢く生きる屍、キョンシーを討つ霊幻道士――娼館の主にしてかつては凄腕の霊幻道士の老人・リンチュウを従え、次々とキョンシーを倒していくコリンだが、うち続くキョンシーの跳梁の背後には邪悪な陰謀が…

 「ノブナガン」のアニメ化効果ということでしょうか、久正人のデビュー作にして中華アクション伝奇活劇「グレイトフルデッド」が復刊されました。
 アマゾンなどではプレ値がついていただけに、復刊だけでも嬉しいのですが、エピローグを書き下ろしで収録と、まさに完結編と言うべき内容で、欣快至極であります。

 さて、本作で描かれるのは、清朝末期の上海を舞台とした霊幻道士とキョンシーの戦い――と言えば、私と同世代の人間にとっては、懐かしいと感じるでしょうか、アナクロと感じるでしょうか。
 正直に申し上げれば、私は、最初は後者の印象でありました。今頃「霊幻道士」、それも本来は造語に過ぎないものが作中に実際にその言葉がでてくるとは…と。

 しかしそれはもちろんつまらないことに拘って本質を見落とす中途半端なマニアの悪癖以外の何ものでもありませんでした。本作は、そんな表面的なものとは無関係に、斬新かつ独創的な道教伝奇ホラーとして成立しているのですから。

 何よりも、主人公たるコリンの設定が凄まじい。いざキョンシーを前にすれば、凄腕の霊幻道士として不敵なまでの態度を見せながらも、普段の顔はどちらかといえば気弱な娼婦――二重人格ヒーロー自体は珍しくありませんが、道士と娼婦という振れ幅の大きさが凄まじい。
 それも、彼女が娼婦であるのは、人間離れした能力を持つキョンシーと互角以上に戦うためのいわばエネルギー源として「精をつけるため」という理屈がついているのには恐れ入ります。

 本作は、この設定に見られるように、どぎつい描写も――残酷描写も含めて――少なくありません。しかしそれが悪趣味でなく、どこかポップな味わいすら感じさせるのは、これは当時から変わらぬ、光と影の強烈なコントラストを中心とした作者の絵柄によるものであることは言うまでもないでしょう。

 そして何よりも本作の見事なは、キョンシー退治のエピソードを積み重ねつつも、そこに清朝末期を舞台とする必然性に足る、巨大な伝奇ものを成立させてみせた点でありましょう。
 終盤には私好みのとんでもない「大物」までも登場、いやはや、霊幻道士の仕事の枠を大きく飛び越えつつ――それでもなおキョンシー退治とぬけぬけと言い張るのが楽しい――ド派手に着地してみせた、愛すべき作品であります。


 ちなみに本作、コリンの師であるリンチュウ(霊幻道士であるだけでなく、とんでもない伝奇的系譜を持つ人物なのにまた仰天)、そのライバルがオウリン、彼らが修行したのが二仙山と、水滸伝ファンはニヤリとできる趣向があるのもまた嬉しいところであります。
(そしてもう一人、これまた意外な人物にもそのネタが用意されていたりして…)


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