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2014.01.22

「鬼溜まりの闇 素浪人半四郎百鬼夜行」 文庫書き下ろしと怪異譚の幸福な結合

 とある事件がもとで主家を離れ、江戸に出た榊半四郎。生きる希望を失い夜の町を彷徨った末、切腹しようとした彼の前に火の玉が現れる。火の玉を斬ろうとした半四郎を止めたのは、一人の子供を連れた謎の老人・聊異斎だった。聊異斎に導かれるまま、半四郎は江戸で起きる数々の怪事件に挑む。

 一月の新刊リストを見て、内容がわからないもののそれっぽいタイトルに大いに気になっていた本作。蓋を開けてみれば、期待通り、いや期待を遙かに上回る時代怪異譚でありました。

 主人公・榊半四郎は、元はとある藩の藩士でありながらも、とある事件が元で藩を捨て、江戸に出て追ってを待つ身。
 しかし藩側は面倒事を嫌って彼を召し放ち処分とし、武士らしい死を望んでいた彼は夜の町を彷徨った末、切腹して死のうとするのですが――

 そのとき目の前に現れた一つの鬼火を斬らんとした半四郎を止めたのは謎の老人。聊異斎と名乗り、捨吉なる小僧とただ二人闇夜を行くその老人は、この場所が鬼溜まりなる魔所であることを告げます。
 死ぬ気を削がれた半四郎ですが、やがて思わぬ場所で聊異斎と再会し、江戸で次々と起きる怪異に挑むことになるのであります。

 この第一話「鬼火」から始まる本作は、全五話構成。
 とある商人の新宅から忽然と姿を消した赤子と子守の謎を追う三人が恐るべき真相を知る「表裏の家」
 前話で用いた愛刀を研ぎに出そうとした半四郎が不思議な刀商と出会う「刀商叶屋」
 名だたる刀を持つ者を襲って斬り殺し、その刀を破却していく奇怪な辻斬りとの対決を描く「剣鬼」
 悪人に騙された末に破滅していく母娘の姿に己の知る女人の姿を重ねた半四郎がある覚悟を固める「初雪女郎」

 うち第一話と第三話は間奏曲的な掌編で、残りが中編に近い分量という構成であります。


 さて、題材的に大いに私好みの本作ですが、読み始めてすぐに、大いに驚かされることとなりました。
 というのも本作が、主人公や物語展開に、非常に「文庫書き下ろし時代小説」的フォーマットを用いつつも、非常に質が高く、かつ斬新な怪異譚を、ここに構築していたからであります。

 「文庫書き下ろし時代小説」的作品については、昨日とりとめもなく述べたばかりですが、本作の設定である「国元でのゴタゴタに巻き込まれて家を捨てて江戸に出てきた浪人が、市井で暮らすうちに様々な事件に巻き込まれる」というのはまさにそれでありましょう。
 本作の場合はその「様々な事件」が、超自然的な怪異ということになりますが、しかしそれが無理なく融合している点に、まず驚かされたのです。

 「文庫書き下ろし」は、端的に言ってしまえば、市井の人々の暮らしに密着した主人公の姿を描く作品。そうした極めて「現実的」な内容と、超自然の怪異というのは、水と油の関係。単純に組み合わせただけでは、何とも違和感のある内容になりかねません。
 それが本作においては違和感なく一つの物語として成立しているのは、これは本作において何を描くべきか、作者が明確に把握しており、そしてそれを踏まえて「こちら側」(現実サイド)と「あちら側」(怪異サイド)から何を描き、何を伏せるかを巧みに配置しているから――それにほかならないのであります。

 そんな本作の魅力が最も見事に現れたのは第二話「表裏の家」でしょう。
 題材的には「幽霊屋敷」テーマともいうべき内容ですが、何故その屋敷に怪異が起きるのか、超自然的な原因を、しかしロジカルに描きつつ、そしてそれを浮き彫りにするための描写が本当に怖い(屋敷を建てた大工の親方のくだりにはもう震え上がりました)。
 結末も意外かつおぞましいものでありつつも、一抹の哀しみを漂わせたものであり――いやはや、脱帽というほかありません。


 江戸の市井の現実に密着しつつ、この世のものならぬ怪異を描く――簡単なようでいて極めて難しいことを成し遂げてみせた本作。
 時代怪異譚の一つの理想型として心からおすすめできる作品であり――そして、今後のシリーズ展開もまた非常に楽しみな逸品です。


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