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2014.02.07

「さんばか」1 江戸の風呂屋に自由と交流の世界を見る

 以前「グランドジャンプ」誌に読切掲載された原作・富沢義彦、作画・たみの時代漫画「ねたもと」が、形を改めて帰ってきました。未来の大作家を目指す少年・菊池久徳が湯屋で様々な人と触れ合う――という趣向は同じですが、本作では読本好きの三人娘が登場、より華やかな物語が描かれることになります。

 時は寛政2年、大書店・耕書堂の主人・蔦屋重三郎と出会った久徳は、寛政の改革で読本を取り締まる岡っ引きに蔦屋が絡まれたのを自分を売り込むチャンスと意気込むのですが、そこに現れたのは奇妙な三人の美少女――飛脚見習いの楓(フウ)、女剣士の汐見菖蒲(アヤメ)、巫女の望月朔(サク)。

 三人があっさりと岡っ引きを追い払ったことで出番をなくした久徳ですが、蔦屋は彼が作家志望と知ると、とある寺子屋に通うよう言いつけます。
 渋々向かった先で彼を待っていたのは先ほどの三人娘と美人師匠。そして師匠の提案で、一同は町の風呂屋に向かうことに…

 というのが今回発売された第一話のお話。正直に申し上げて、今回はまだプロローグという印象で、物語が大きく動くのはこれから、というところですが、しかしこれから本作で重要な意味を持つであろう「風呂屋」の持つ意味は、ある意味「ねたもと」以上に明確に示されているように感じます。

 時あたかも松平定信の寛政の改革のまっただ中、改革の美名の前に、庶民の娯楽が制限され、ただでさえ厳しい身分の締め付けが一層厳しくなった頃。本作の冒頭でも描かれたように、それに乗じてゆすり、たかりをする人間も出る始末であります。

 そんな中、風呂場は、風呂場のみは、身分を離れた人々の交流の場であり、そしてそこで交わされる言葉も自由な本音だった――というとちと大袈裟ですが、しかし風呂屋が現代のそれとはまた異なる、ユニークな場所であったのは事実でしょう。
 そしてそこを舞台として描かれる物語は、現代の我々にとって馴染みがないようでいてどこか近いそれでいてこれまで見たこともないようなものになるはず。
 今回描かれた風呂屋とは、そのような舞台装置、いや世界なのであります。
(そして身も蓋もないことを言えば、読者サービスもしやすいわけで…)

 もちろん、先に述べたとおり本作はまだ始まったばかり。風呂屋だけが舞台に――久徳の創作の題材に――なるわけではないでしょうし、これから物語はさらに広がっていって欲しいとも思います。
 しかしそれであったとしても、これから物語が向かっていく先は、この風呂屋に象徴されるような、自由な人と人との交流の世界――言い換えれば文化の世界であることだけは間違いありますまい。


 最後になりますが、本作は、Kindleで、いわば描き下ろし形態で刊行されるスタイル。(正直なところ、このスタイルであればもう少し一回当たりにボリュームが欲しいところではありますが、それはさておき)
 江戸の読本業界、すなわちエンターテイメント出版界を舞台にする作品が、このような書籍としてほぼ最先端の形で刊行されるというのは、なかなか興味深いところであります。


「さんばか」1(たみ&富沢義彦 脱兎社) Amazon
さんばか 1


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