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2014.02.19

「水滸伝」第18話「宋江 閻婆惜を娶る」/第19話「張文遠 情により烏龍院に陥る」

 実に半年ほど間が空いてしまい、その間に放送が終了してしまったりして本当にお恥ずかしいのですが、久々に取り上げますドラマ版「水滸伝」。今回は宋江と閻婆惜のくだり――原典では色々と後味の悪いお話でしたが、こちらではちょっと驚くようなアレンジが行われています。

 前回のラストで王倫を斬った林冲が、原典どおりの展開を経て晁蓋を首領に推し、晁蓋は困惑顔――という冒頭部分以外、全て宋江側の物語が描かれる第18話・第19話。

 こちらも原典どおり、かつて困っていたところを助けた閻婆や仲人のおばさんから、美貌の娘・閻婆惜を妻にするよう、熱心に勧められる宋江なのですが――
 はっきりと異なるのは、原典では母親が先走り、本人は全くその気がなかったのに対し、このドラマ版では、閻婆惜も大いに宋江を慕っているという点でありましょう。

 原典ファンであれば「ウソでえ」と言いそうな展開ですが、こちらの宋江はウン城県では知県に次ぐ有力者(ということは実質県政を動かしていることに…)と言われているほどの人物であり、原典の描写に比べれば風采もそれほど悪くない人物。
 そして何よりも義侠心に富んだ人物とくれば、なるほど、若いうちから苦労してきた閻婆惜が心を寄せるのもわからないでもありません。

 この閻婆惜、登場した時は気難しげで宋江にも冷たいように見えて、実はそれは好意の裏返し。そんな純情なようでいて、いざとなればとんでもない行動力を発揮する(一度仲人が断られたとみるや、「自分が自分の仲人になる」と言って宋江に迫ったり)彼女の想いが通じた――というより宋江的には退路を断たれて――めでたく二人は結ばれた、かに見えたのですが…

 ここで(いきなり朱仝と雷横が借りてきた)新居に移る二人ですが、なんとここで宋江が、契りは契りでも閻婆惜と義兄妹の契りを結ぼうと言い出すのには、見ているこちらが愕然とするような展開。
 女性に迫られて義兄弟といえば、原典での燕青と李師師が思い出されますが、多分に浮ついたところのあったあちらにくらべ、本作の場合は、閻婆惜は本気の本気。
 すでに妻に先立たれたという設定の宋江にとっては、もう結婚する気はないということなのですが、それにしても、顔は笑いながらも目に涙を浮かべて宋江に妹としての礼を取る閻婆惜の姿には、と胸を衝かれました。

 中国ドラマにしてはかなり艶っぽく迫った閻婆惜と一夜は過ごしたものの(ダメだこの人…)、その後は公務多忙を理由に足を遠ざける宋江。
 何よりもキツいのは、そんな宋江が、閻婆惜のねだる着物や家具は惜しみなく買い与えていることで――宋江にしてみれば当然のことなのかもしれませんが、しかし閻婆惜にとってみれば、モノさえあてがっておけば満足だろうと、一個の人間として扱われていないことに等しい扱いでありましょう。
(一人で囲碁を打っていた宋江に、私がお相手しましょうと閻婆惜が加わろうとするや、いきなり碁石を崩すシーンもキツい)

 作中で明確に彼女が語っているように、彼女が欲しかったものは(原典とは違い)金ではなく心。たとえ側女であっても、せめて自分のところにいる時は愛して欲しい――というのはエゴかもしれませんが、しかし一個の人間としては当然の感情でありましょう。

 閻婆惜にとってさらに悲劇だったのは、一番の理解者になるはずの母親が、「所詮男女の間はこんなもの」と完全に割り切っていた人物であること。そんな彼女が娘の心中を忖度できるはずもなく、ますます閻婆惜の孤独感は募っていきます。

 そして更なる悲劇は、生真面目で、小心で、しかし彼女に対して一途な男――宋江の部下である張文遠が彼女の前に現れたこと。原典では色好みの男だった彼ですが、本作ではある意味純情すぎる男として描かれ、そしてそれが自棄になっていた閻婆惜の心を動かすことに――

 結果としてみれば、原典どおり閻婆惜は張文遠と浮気することになったのですが、しかしそこに至るまでに描かれたのは――やはり表面上は原典どおりであるものの――人の心と心の掛け違いが生んだ一個の地獄絵図であります。
 私も色々な水滸伝を見て参りましたが、ここまで閻婆惜に同情できる、あるいは彼女の行動に納得できるのは初めてであります。


 とはいうものの、彼女の行動がいつまでも隠しておけるはずもなく…というところで次回に続きます。


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