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2014.02.13

「天涯の楽土」 神から人へ、少年から大人へ

 紀元前一世紀の久慈(九州)、津櫛邦の王の軍に攻められた豊邦の少年・隼人は、奴隷として津櫛に連行される。そこで少年剣奴・鷹士と出会った隼人は、彼の冷徹な態度に反発するが、逆に幾度となく助けられることとなる。そして奇しき運命から、隼人と鷹士は久慈の十二神宝を集める旅に出ることに…

 第4回野性時代フロンティア文学賞を受賞した、古代日本を舞台としたファンタジーの快作であります。
 舞台となるのは後に九州と呼ばれることとなる地、久慈。久慈を構成する邦の一つである豊邦で平和に暮らしていた少年・隼人の里を、津櫛邦の兵が襲い、里が焼かれ、場面から、この物語は動き出すこととなります。

 両親たちの安否もしれぬまま、子供たちだけ集められ、奴隷として連行される隼人たち。彼は、自分たちを連行するさほど年の変わらぬ、しかし大人顔負けの戦闘力を見せる剣奴(上級の戦闘奴隷と言うべきでしょうか)の鷹士の冷たい態度に反感を抱くのですが…

 しかし、連行された先の邑で待ち受けていた雑奴としての辛い毎日の中、隼人を何くれとなく――しかしそれが何かの間違いだったかのように冷たい態度で――助ける鷹士に、不思議な興味を抱くようになっていく隼人。
 やがて鷹士専属の雑奴となった隼人は、彼とともに邦の姫や神官を守って旅することになるのですが――その一行が襲われ、攫われた姫たちを追ううちに、彼らは久慈を巡る状況が想像以上に複雑であることを否応なしに知ることになります。

 そしてそれが、実は自分の運命とも密接に関わっていたことを知る隼人。そして鷹士もまた――


 我々が日本史を学ぶ時、初めて個人名が登場するのは、おそらくは紀元3世紀の卑弥呼でありましょう。逆に言えば、それ以前は誰が何をやっていたのか、具体的なイメージで掴めない時代。
 時代区分でいえば弥生時代、各地に国の卵ともいうべき集団が生まれ、そして舞台となる久慈(九州)では鉄器が使われるようになった時代…という把握の仕方が、やっとであります。

 本作はそんな曖昧模糊とした印象すら受ける時代を舞台とした作品でありますが――その舞台設定を非常に効果的に用いていることに驚かされます。

 それまでは、神秘的な力を秘めた十二の神宝を拝し、神意の下に平和に暮らしていた久慈の人々。しかし神意に依らず、人の力――武力を以て久慈を統一せんとする津櫛邦の登場により、久慈は大きく揺らぎ、隼人や鷹士らはその中に巻き込まれていくことになるのであります。
 そう、本作で描かれるのは、神の時代から人(の王)の時代へと移り変わっていく、まさに過渡期の物語。神と直接繋がっていた人々が、望むと望まざるとに関わらずそれから切り離され、人の手による身分が、社会秩序が固定化していく時代の物語なのであり…隼人や鷹士が真に対峙するものは、この巨大なパラダイムシフトなのです。

 しかし本作はそれに留まりません。その神から人への物語にそのまま重なって描かれるのは、少年から大人への物語――自分たちが背負っているものを知らずにいた少年たちが、その存在を知り、自分たちと世界の繋がりを自覚した上で、新たな一歩を踏み出す姿が、瑞々しく描かれるのであります。

 本作の最大の魅力は、遠い過去における巨大な時代の移り変わりの物語と、遠い過去に生きた――しかし今に通じる少年たちの成長の物語を、一つに結びつけてみせた点でありましょう。
 そしてそれをごく自然に、そしてエンターテイメントとしての興趣を失うことなく成立させてみせたのは、もちろん作者の瑞々しい筆致によるもの。
 特に隼人と鷹士という対照的な、しかしそれだからこそ互いに強く結びついた少年たちを、それぞれ魅力的に描いてみせた時点で、本作の成功は約束されたようなものでしょう。

 そして、少年から大人になる道も決して一つではなく、そして、神から離れることが楽土を失うということではない――すなわち、大人になるということと自分らしく生きることが決して両立できないものではない(かもしれない)、と示してくれる結末も嬉しい。一種の青春小説としても楽しめる佳品であります。


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