「首のない亡霊 晴れときどき、乱心」 江戸と長崎を結ぶ恐怖と狂騒
彼の中のもう一つの人格・源之丞を手中に収めようと企む青海の画策で、長崎に遊学することになった作之進。しかし彼の乗った船は、島原付近で奇怪な幽霊船に襲われる。一方、江戸の銀次は、探索の途中で不思議な姿なき声を聞く。江戸と島原で怪事に翻弄される人々の前に現れた亡霊の正体は…
ある時は温厚でお人好しの腰抜け武士の作之進、またある時は超絶の剣を振るうエキセントリックな狂剣士の源之丞、多重人格の主人公を中心に描かれる怪作スラップスティック時代小説「晴れときどき、乱心」の第3弾であります
一度は源之丞に支配されて行方不明になったものの、下総を舞台とした本当に大変な騒動の末に友人や師と再会した作之進。
しかし源之丞の異常な戦闘能力に目を付けた怪忍者、表の顔は温厚な青年医師の青海が言葉巧みに誘導した結果、作之進は長崎に向かうことになります。
江戸から引き離して源之丞を自分の支配下に入れようとする青海ですが、しかしここで現れるのは意外な妨害者。長崎も近くなった海で行く手に幽霊船が出現、そこから現れたのは首のない異装の幽霊でありました。
源之丞の剣も、青海の忍法も効かぬ相手に翻弄され、一行は追いつめられていくことに――
一方、江戸に残った作之進の友人で岡っ引きの銀次は、協力者の霊感坊主・隆心から、江戸に奇怪な気配を感じさせる一角があることを聞かされ、そこで自身も姿なき何者かの声を聞くことになります。
調べてみればそこはかつての切支丹山屋敷跡。隆心から、そこに首だけの亡霊がいると聞かされた銀次は、成り行きから除霊に向かうことになってしまうのですが、思わぬ乱入者のおかげでえらく混沌とした事態に突入してしまうのでした。
と、前作は登場人物のほとんど全員が狂人かマヌケという地獄のような事態だったのですが、本作はその中でもトップクラスにおかしい源之丞の出番が少な目なことと、作中ほとんど唯一の常識人の青海が出ずっぱりなこともあって、かなり落ち着いた印象。
…が、物語の方はむしろパワーアップ、江戸と長崎で並行して起こる怪事件は、いかにも本作らしい狂騒的な展開を経て、一つに合流していくこととなります。
そして剣呑でこそあれ極めて冷静なはずの清海も、それが過ぎてむしろボケキャラとなり、ついに誰もツッコミがいないという状況に…ああ、やっぱり。
クライマックスは彼が真面目になればなるほど客観的に可笑しくなっていくという状況。思い切りフェイクの入った章題も相まって、今回も何が飛び出してくるかわからない本シリーズの魅力を味わわせていただきました。
首なし亡霊の正体は最初から明白でありますし(これはまあ狙ってのことでしょう)、そもそも何故いまなのか、という疑問は残りますが、しかし勢いで押し切られてしまうのが本シリーズらしいところでしょう。
思わず唖然としてしまうような結末を経て、この先どのように展開していくのか本当にわからなくなりましたが、しかしそれも本シリーズらしいところでありましょう。
「首のない亡霊 晴れときどき、乱心」(中谷航太郎 廣済堂モノノケ文庫) Amazon

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