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2014.02.03

「かがやく月の宮」 奇想と孤独に満ちた秘巻竹取物語

 伏見の竹生島の館にいつからか住まうという絶世の美女・かぐや姫。彼女に言いより、五つの宝を探すこととなった五人の公達を破滅させた彼女に、帝も興味を持つようになる。外では大唐国との緊張が高まり、内では藤原氏が勢力を伸ばす中、憑かれたように姫を求めた帝が見たその正体は…

 宇月原晴明久々の書き下ろし長編は、なんと「竹取物語」、誰もが知るかぐや姫の物語を題材とした作品。しかしもちろんこの作者だけに普通の作品で終わるはずもなく、遙か海を越えた世界にまで広がっていく、奇想に満ち満ちた物語であります。

 自らの物語の書き出しに悩むある女性が、父から与えられたという秘巻「かがやく月の宮」。巷間に知られた竹取物語とは似て全く非なるこの物語を彼女が紐解いていくという、作中作の形で本作は語られていきます。

 伏見に竹取の翁とともに住んでいたというかぐや姫。絶世の美貌を持つという彼女に言いよった五人の公達は、それぞれこの世に二つとない珍宝を望まれて…
 というのは概ね原典と同じですが、しかし悽愴を極めるのは、その五人の候補者の末路。金銭に、名誉に、名声に、生命に、権力に――一人一人が執着したものに仇されるように、ある者は命を失い、ある者は消息を絶ち、次々と破滅を迎えていくのであります。

 そんなおそるべき物語は、しかし本作においては序章のようなもの。彼らの奇怪な運命が語られた上で繰り広げられていくのは、かぐや姫とは何者であるか? その根本的な問いかけであります。
 紙魚老人の異名を持つ碩学の口から語られるのは、本朝から海を越えた大陸の仙道書「抱朴子」の幻の巻に記されたという玉女であり、さらに遙か西域は波斯の伝説に残る月の女神と、彼女を崇める月狂外道の物語。
 その伝説は本朝に渡り、やがて思いもよらぬ太陽と月の物語に姿を変えることに――

 術法による人体錬成、波斯渡りの奇怪な伝承…いずれも作者のファンであればニヤリとさせられる要素ですが、作者の作品を語る時、これらの「幻妖華麗」のみでは足りないことも、ファンであればまたよくご存じでしょう。もう一つ、作者の作品に漂うもの――それは拭いがたい「孤独」の色。そしてそれもまた、本作の重要な要素として存在します。

 本作に登場するもう一人の求婚者、それは原典のとおり帝であります。しかし彼の心に抱えたものは、帝とは思えぬ巨大な孤独。

 父亡き後、母は偉大な女帝として海の向こうの戦いを指揮し、英邁さを謳われた兄はその母に疎まれて死を賜り、密かに慕っていた姉も兄を追うように姿を消し…
(ちなみにこの部分で帝が歴史上の誰に当たるかはほとんど明確になるのが面白い)
 そして今、政は藤原氏に一手に握られ、唐からの脅迫に近い使者が訪れてもまったく出る場がない、いや逆に病がちであることを回答先延ばしの理由に使われてしまう始末。

 この国の頂点に立つ者、日輪とも呼ばれる存在でありながらも、その地位に見合うものを持たず、いやただ一人の人間としても満たされぬ者を抱えた彼が、月の化身と言うべき姫君と出会った時何が起こるのか…
 最後の最後まで原典をなぞりつつも、本作は全く異なる結末を迎えるのであります。


 至尊なればこその痛切な孤独と、その孤独を癒やすかのような異界との交流というモチーフは、「安徳天皇漂海記」以降の作者の作品に通底するもの…というより、そのまますぎるという印象はあるかもしれません。また、上で触れた本作の構成要素も、過去作品の変奏曲のように感じられる点も否めません。

 しかしそれでも本作がその妖しくも心惹かれる輝きを失わないのは、趣向こそ似通っていても個々の描写は全く異なる作者一流のものであることはもちろんであります。
 しかし何よりも作中作として描くことにより――本作自体を一つの物語の中にぬけぬけと封じ込めることにより、史実を踏まえつつもさらに自由な世界に羽ばたくことを可能とした、見事に「伝奇的」な精神によるところが大きいのではありますまいか。

 本作の結末は、勘のいい方であれば早々に予想がつくかと思いますが、しかし、日本最古の物語が日本最大の物語へと繋がっていく様には、不思議な爽快感があります。


 そして――実は作者がかぐや姫を描いた作品は、本作のみではありません。本作に先行して発表されている「赫夜島」をはじめとする一連の短編は、まだまだ本作の背後に広がる闇の存在を浮かび上がらせてくれるのです。
 こちらも早々に単行本化されることを祈っている次第です。


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かがやく月の宮


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