「真田幸村」 今よみがえる英雄のオリジン
昨年から一部で話題を集めているパール文庫。渋いというのを通り越して意表を突いたラインナップのレーベルですが、その中で「真田幸村」が刊行されています。著者は大河内翠山、少年向け講談集が底本の一冊であります。
パール文庫とは、これまで教科書ガイドや参考書などを出版している真珠書院が昨年夏に立ち上げた高校生向け小説レーベル。
時代を超えて肩ひじ張らずに楽しめる娯楽小説、という趣旨なのですが、収録されているラインナップが、海野十三「海底大陸」、寺島柾史「怪奇人造島」、小酒井不木「少年科学探偵」などなど…いつの時代の高校生ですか、と申し上げたくなるほどなのであります。
今の高校生が果たして喜んでくれるかは別として、しかし、既に絶版となって久しい名作の数々が――大半は青空文庫で読めるとはいえ――今風の装いで書店に並ぶというのは、何だか心躍るものがあるではありませんか。
そんな中で現時点では唯一の時代ものである本作は、冒頭に述べたとおり、少年向け講談からの収録です。
内容の方は、関ヶ原の戦の際の第二次上田合戦から、大坂夏の陣に至るまでの真田一党の活躍を描いたもの。
同じ講談でも、だいぶ以前に読んだものでは幸村が単身敵陣に乗り込んで家康の首を狙うという無双っぷりでしたが、こちらの方は幸村はむしろ後ろに下がって軍師ぶりを発揮いたします。
代わって活躍するのはご存じ猿飛佐助をはじめとする豪傑たち。
佐助のほか、穴山小助、名和無理之助、根津甚八郎、望月主人、由利鎌之助、駒ヶ岳大任坊、三好清海入道、霧隠才蔵、大力角兵衛…と、現在でも馴染みのない顔ぶれが並びますが、十勇士という名称自体、終盤に唐突に一回出てくるだけで、本編にはほとんど登場しないのが面白い。
真田十勇士は、確か今から百年ほど前に確立したものだと思いましたが、本作においてはその確立前の姿が見れるということでしょうか。
また、十勇士のほかに活躍するのは、これもお馴染み幸村の子・大助。本作では恭順の使者を装って単身家康暗殺に向かうという大役を任されることになりますが、個人的に興味深かったのは、作中で、大助が後藤又兵衛に(精神的に)救われる場面があること。
大助と又兵衛といえば、個人的には柴錬立川文庫での絡みが思い出されるのですが、あるいはこの辺りに源流があるのかしらん。
(ちなみに又兵衛豪傑、本作では真田一党以外では一番いい役をもらっている印象であります)
と、内容もさることながら、本作はむしろ真田幸村と彼にまつわる物語の源流という観点から見ると面白いものがあります。
考えてみれば幸村という人物自身、むしろ史実よりも講談がオリジンと言ってもよいように感じられる人物。言うまでもなく今でも大人気の幸村のオリジンに、若い層がこういう形で触れるのは、なかなかに面白いことではありますまいか。
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