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2014.02.17

「妖草師」 常世に生まれ、人の心に育つ妖しの草に挑め

 絵師・池大雅の家に現れた奇怪な植物――妖草。それを駆除したのは、妖草を駆逐する妖草師・庭田重奈雄だった。しかし事件は始まりに過ぎず、謎の尼僧の暗躍により、妖草による事件が次々と起こる。敵の狙いが紀州藩にあることを知る重奈雄だが、そこには彼にとってかけがえのない女性がいた…

 先日「読楽」誌に短編「伊藤若冲、妖草師に遭う」が掲載された武内涼の「妖草師」の、いわば本編とも言うべき長編が発売となりました。

 「妖草」とは、常世――冥界や魔界を含む向こう側――に育つ、異界の草花。必ずしも全てが有害ではないものの、一つこの世に育った妖草は他の妖草を招き寄せ、やがてはこの世に災厄をもたらす存在であります。
 そしてこの妖草が苗床とするのは、人の心――強い想い、なかんづくネガティブな感情に反応して妖草はこの世に現れ、育っていくのです。

 これに対し、その妖草を狩る…いや刈る者が、妖草師という存在。その正体を見抜き、それにふさわしい対処を行い、さらには原因となる人の心の在り方を突き止める者――本作の主人公である、実家から放逐された公家・庭田重奈雄こそが、その妖草師なのです。

 本作は、その妖草師の登場編ともいうべき一作であります。
 冒頭――映画でいえばアバンタイトルとも言うべき部分で、池大雅の家に突如蔓延った妖草と対峙、駆除し、その原因たる人の心の存在を解き明かしてみせたのはほんの序の口。
(ちなみにこの冒頭から、重奈雄の押し掛け相棒的に振る舞うのが曾我蕭伯というのがまた面白い)

 大雅の家に生えた妖草を持ち去った尼僧がいる、という報に感じた嫌な予感が当たったか、京洛で起きる妖草絡みの怪事件に巻き込まれた重奈雄、大雅、蕭伯、さらに重奈雄を慕う池坊家の娘・椿は、次々と現れる奇怪な妖草と対決することになります。
 さらに事件は江戸の紀州藩邸にまで広がっていくのですが――そこで彼を待っているのは、かつて彼が恋い焦がれ、道を踏み外しかけた女性。
 かくて重奈雄の戦いは、妖草師の使命だけではなく、かつての自分自身と向き合うものとなるのですが…


 さて、作者の作品においては、これまでも植物がしばしば登場してきました。時に文字通り背景として、時に主人公たちの味方あるいは敵として。しかし本作において大きく異なると感じられるのは、本作に登場する植物たちの多くが、人の存在と関わっている点であります。

 池坊家の跡取りとして育てられた椿はもちろんのこと、重奈雄の実家も、立花で知られた家柄。そんな彼らの扱う生け花は、素材は自然のものとはいえ、人の手が介在したものであります。
 そして妖草は、その由来自体は常世のものではありますが、上で述べたように人の心を苗床とするもの。人の存在があって初めて、現世に芽吹き得るものなのです。

 花の道と妖草、現世の植物と常世の植物が、人間の存在を挟んで対比されている点に、個人的に大いに興味を覚えた次第です。

 さらに言えば、そしてこの対比関係は、さらに池大雅や曾我蕭白といった絵師、芸術家の存在で、さらに自然の美と人工の美という対比がなされているように感じられるのですが…


 閑話休題、そうした構造の面白さもありますが、しかし最大の魅力は、これまでの作者の作品から、妖草という要素を加えることによってさらに切れ味を増したアクション描写でしょう。妖草を操るのは敵だけではなく、妖草を以て妖草を制するために、重奈雄も妖草を操るのであります。
 この妖草合わせバトルの面白さに加えて、さらにラストでは、伝奇時代劇史上でも屈指の植物怪獣との対決が…(そもそも植物怪獣自体が稀少なのですが)

 と、題材のユニークさ、アクション描写、ドラマ性、どれをとっても本作ならではの魅力に溢れた本作。先に述べたとおり短編も執筆されていることもあり、これから先のシリーズ展開に大いに期待しているところです。


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 「読楽」2014年1月号 「時代小説ワンダー2014」(その2)

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