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2014.02.04

「石燕夜行 輪入道の巻」 人間と怪物を分かつものは

 「画図百鬼夜行」をはじめとする妖怪画集を遺した実在の絵師・鳥山石燕と妖怪の頭領・塗楽たちが邪悪な妖怪たちに挑む「石燕夜行」の続編が早くも刊行されました。今回も重く切なく、しかしどこかユニークな空気も漂う独特の世界が描かれております。

 鳥辺山の墓場で生まれ、幽霊に育てられた過去を持つ青年・石燕。彼の灰色の瞳はこの世のものならぬものを映し、そして彼が手にした筆は様々な奇蹟を起こす――
 そんな石燕が、塗楽やその仲間の妖怪たちとともに、人と妖怪の双方に害をなすモノが引き起こした事件を解決する、というのが基本パターンは、本作も共通であります。

 本作に収録されたエピソードは全部で3つ。
 祭り囃子に紛れて妖怪たちを招き寄せ、捕らえる謎の二人組の背後に、思わぬ長大な時の流れを見る「妖笛の巻」。
 妖怪たちの宿敵である美剣士・椿鏡花とともに江戸で頻発する吸血事件を追った石燕が悲しい運命の存在を知る「夜叉椛の巻」
 かつて石燕や塗楽、鏡花と因縁を持った外道たちの復讐に彼らが対峙することになる「輪入道の巻」

 登場する妖怪たちの顔ぶれは比較的メジャーなものですが、しかし作中での扱いは相当にユニーク。特に「妖笛の巻」に登場したある妖怪は――元々よくわからない存在ではあるとはいえ――作中での怪異と密接に結びついた生態描写が実に面白い。
(さらにいえばこのエピソード、謎の敵の正体を知るために塗楽が儀式を行う場・奇妙塔のすっとぼけたアイディアも楽しい)

 そして塗楽とともに石燕とは不思議なトリオ状態となる鏡花の背負ったものが明かされる「夜叉椛の巻」も面白いのですが、やはり圧巻は、本作のほとんど半分近いボリュームで描かれる「輪入道の巻」でしょう。

 前作に登場して悪行の限りを尽くした末に鏡花と塗楽に制裁された金貸し・蛇座頭。かつて石燕の想い人を利用し、その命を塵芥のように奪った呪い師・蛭法師。そして数十年昔に人々を苦しませた末に塗楽に封印された妖怪・輪入道。
 座頭・法師・入道と三人の外道が手を組んだのに、石燕たちトリオも奇っ怪な手段で反撃するという趣向も(鬼太郎の「地獄流し」的展開で)楽しいのですが、しかしその一方で強く印象に残るのは、蛭法師に対して暗い怒りを燃やす石燕の姿であります。

 タイトルロールとは言い条、比較的作中では控えめな立ち位置にあった石燕。
 それは、これまでの物語ではほとんど巻き込まれた立場にあったゆえかもしれませんが、しかしこのエピソードにおいて登場する蛭法師は、彼にとっては仇であり、倒すべき相手として位置します。

 そして石燕はその妖しの筆の力をフルに発揮し、蛭法師を追い詰めていくことになるのですが(ちなみにその描写が、石燕をモデルにした妖怪絵師を主人公にした漫画のそれに近いのがちょっと面白い)、しかしそれは果たして許されることなのか、望ましきことなのか、その問いかけが、彼に対して為されるのです。


 そしてこうした問いかけは、このエピソードのみではありません。本エピソード、そして他の二つのエピソードにおいても共通するのは、「死への恐れ」「生への執着」であり、それが募ったあまりに道を踏み外した者の姿であります。

 前作でも描かれたように、本作に登場する妖怪たちにも、人間と(少々異なる形かもしれませんが)変わらぬ情、想いが存在します。
 そうであるとすれば、人間と妖怪を、いや人間と怪物を分かつものは何なのか。それを最もよく知る(べき)者は、その狭間に立つ石燕なのでしょう。
 作中で彼に対して為される問いかけ、彼が為す選択は、まさにこの点に対してのものなのであります。


 何やら理屈をひねくり回してしまいましたが、本作が、ユニークな妖怪たちの存在を描くキャラクターもの的側面を持つのと同時に、様々な形で「人間」の想いを浮き彫りにする物語なのは間違いありません。
 それゆえ(宣伝とは異なり)痛快さとは少々かけ離れた感触ではあるのですが――しかしそれが本作の特色であり、魅力でありましょう。


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