「義経になった男 2 壇ノ浦」 平家滅亡の先の真実
頼朝との軋轢を生じながらも奇策により連勝し、ついに壇ノ浦で平家を滅ぼした義経主従。しかし義経の存在に危機感と嫉妬を抱く頼朝は義経の鎌倉入りを拒み、義経は廃人同様となってしまう。影武者として義経を支えてきた沙棗は、義経の再起の時まで、彼に成り代わって生き延びるための戦いを始める。
平谷美樹の初時代小説、全4巻の大長編である「義経になった男」の第2巻であります。
ちょうど全体の半分となる本書ですが、サブタイトルにあるとおり、この巻で描かれるのは早くも壇ノ浦の合戦。しかもそれもその前半で終わり、それに続いて描かれるのは、いよいよ本格化する義経と頼朝の確執であります。
偶然義経と瓜二つであったことから、橘司信高に見出され、義経の影武者となることになった蝦夷の青年・沙棗。
もう一人の影武者・小太郎とともに、奥州で義経の近くに仕えることとなった沙棗は、その義経修行の中で、義経本人も驚くほどの用兵の際を見せていくこととなります。
傲岸さと繊細さが同居する義経に反発と魅力を感じながら、いよいよ義経らとともに平家との戦いに向かうのですか――
沙棗の出自を巡る物語や、義経が奥州を訪れるまでなど、歴史の裏側を描く部分がが多かった第1巻に対し、義経が歴史の表舞台に立つこの巻においては、もちろん本作なりの肉付けはなされているものの、表面上はより史実に基づいた、史実通りに物語は展開していくことになります。
しかしもちろん、本作がそれだけの物語であるはずはありません。その史実の裏側で、隙間で、少しずつ描かれていく本作ならではの「真実」。その真実は、壇ノ浦の合戦が終わった本書の後半から、再び大きなウェイトを占めていくこととなります。
史実に残る頼朝と義経の確執。本作におけるそれは、嫉妬深く執念深い頼朝の器の小ささと、彼の腹心たる梶原景時の佞奸ぶりからくるものですが(この二人を分かりやすい悪人にしたのは評価が分かれそうな部分ではあります)…
肉親の愛に恵まれす、まだ見ぬ兄を盲信的に仰いできた義経は、その想いと現実に引き裂かれ、心を病んでしまうのであります。
そこで彼に代わって「義経」となるのはもちろん沙棗。本作においては、腰越で追い返されてから奥州に向かうまでの「義経」の行動は、全て沙棗が取ったものであり――義経以上に義経らしい彼の決断が、後の歴史に繋がっていくこととなるのであります。
そしてもう一人――義経の愛妾として知られる静御前が、本作ならではの姿を見せることになります。
実は彼女の正体は、沙棗とともに奥州にやって来た蝦夷の娘・アイベ。いつしか義経と愛し合うようになった彼女は、顔に入れた刺青を白粉で隠し、白拍子として義経の近くに侍っていたのですが…
事実で彼女を襲った悲劇は万人のよく知るところであり、本作でもそれは描かれることとなります。
しかし彼女の出自を蝦夷とすることにより、本作はそこに全く別の意味を与えることになるのです。
それが何であるかはここでは述べますまい。しかし、彼女の決意こそは、主人公たる沙棗が義経と一体化せんとするあまりに捨て去ってきたものであり――そして義経が中央の権力者から見放され、一放浪者となった今こそ、沙棗が、義経たちが抱くべき想いなのでありましょう。
再び奥州に向かう義経一行。真の義経の復活はあるのか。そしてその時、沙棗は何を想うのか。そして鎌倉との争いに巻き込まれることとなる奥州の人々は…
いよいよ後半戦に突入であります。
「義経になった男 2 壇ノ浦」(平谷美樹 角川春樹事務所時代小説文庫) Amazon

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